プログレを聴こう~KENSO探求紀行~Vol.6

KENSO『夢の丘』(1991年) 清水義央によるセルフライナーノーツ

1989年12月の三枝俊治くん参加の初ライブのあと、かねてより作曲の仕事に専念したい旨伝えられていた佐橋くんが脱けることになった。

これは勿論痛手ではあったが、思えば1984年のライブで緊急入院となった故牧内くんのピンチヒッターとして急遽KENSOに加わってくれてからの5年間、作編曲家としてどんどん頭角を現して多忙になってゆくなかでもKENSOを続けてくれたことは有り難かった。

彼には作曲について多くのことを教わった。あの時期、ライブのリハーサルも最後の一回に出てくるのがやっとの様子だったから仕方ないなと感じた。思えば村石→三枝→光田という優れたメンバーの加入も佐橋くんの存在あってのこと、大変に感謝している。

さて、4人になった我々が次のキーボーディストを探しながら、新しいKENSOを模索していた時に最初に作ったのが「心の中の古代」という曲で、メンバー4人の個性が絡み合い、まさに新しいKENSOを象徴する曲となる予感があった。佐橋くんのラストライブで初演した「地中海とアーリア人」もこのリズム隊の極上のグルーヴで曲に磨きがかかってきた。

そうこうしているうちに2名いたキーボーディストの候補者の中から、光田健一くんに加入してもらうことになった。もうひとりの候補者はまだティーンエイジャーだったが、彼はその後、Tスクエアなどで活躍することになる。

光田くんについては「高校生なのに新宿ピットインなどでピアノを弾いているすげえやつがいる」などという噂を聞いていたし、佐橋くんや村石くんは彼のことを「ジャズ健」と呼んでいたから、「基本ジャズのひとなのかもな?」と想像していたが、「ロックキーボードだったら小口がいるし、ジャズ健が入ってくれれば、それこそ私の大好きなWEATHER REPORTやPAT METHENY GROUP的な要素も入れられるんじゃないか?」
彼も(まだ芸大在学中だったのかな?)快諾してくれた。

ワクワク感いっぱいの初リハーサル。初めて間近で接した光田くんのプレイは私の想像を軽く超えていた。私と彼の年の差は10歳。これが才能というものか!とにかく驚き、感嘆し、少しだけ嫉妬した。

1990年10月の光田加入後の初ライブへ向けて曲もできバンドがどんどん加速していった。このライブを録画したVHSテープに「光田効果」と書いてあることからも、彼の加入は決定打となり、バンドは勢いに乗った。また、今に続く小口&光田のツイン・キーボードはKENSOの大きな魅力となった。長きにわたり、お互いに対するリスペクトと良い意味での対抗心のブレンド具合が最高で、これはね、もう神の采配としか言いようがないのですよ。

『夢の丘』では、小口くんも私には絶対に書けない「時の意味」と「フォース・ライク」という傑作2曲を作ってくれ、なんと加入したばかりの光田くんも図々しく(ウソウソ)新曲を作ってくれた。

今あらためて「謎めいた森より」を聴くと、恐らくアルバムの全体像が見えてきてから、「こんな曲があったらもっとアルバムが良くなるはず」と作ってきたに違いない。この曲、三枝くんのベース以外はボイス含めて光田くんの独演だ。末恐ろしい21歳、、、、、も、今は56歳。

個人的なことだが、レコーディング期間中にギリシャとベルギーを旅行した。その時に自分の中に巻き起こった霊感のようなものが本アルバムに影響を与えているように思う。最高傑作という呼び声が高い本作。皆さんはどう聴かれるだろうか。


■KENSO『夢の丘』
https://lnk.to/Yume_no_Oka

■プレイリスト第1弾「KENSOの前にコレを聴け」
https://lnk.to/KENSO_Playlist1
■プレイリスト第2弾 「KENSOを聴け(初心者編)」
https://lnk.to/KENSO_Playlist2
■プレイリスト第3弾「KENSOを聴け(マニア編)」
https://lnk.to/KENSO_Playlist3

■プロフィール
清水義央 Yoshihisa Shimizu (Guitar)
小口健一 Kenichi Oguchi (Keyboards)
光田健一 Kenichi Mitsuda (Keyboards)
三枝俊治 Shunji Saegusa (Bass)
小森啓資 Keisuke Komori (Drums)

1974年、リーダーの清水義央を中心にKENSOを結成。バンド名は在籍校であった神奈川県立相模原高校の略称“県相”に由来する。1980年に自主制作盤1stアルバム『KENSO』をリリースし、1985年にキングレコードのNEXUSレーベルより3rdアルバム『KENSO(Ⅲ)』でメジャー・デビュー。以降、メンバーチェンジを経ながらも長きに亘って活動を継続。ロックをベースに、クラシックやジャズ、民族音楽といった様々なジャンルの要素を採り入れた音楽性や高度な演奏テクニックによって国内外で多くの支持を集め、海外のロック・フェスティバル出演経験も持つ日本屈指のプログレッシヴ・ロック・バンド。

関連記事一覧