プログレを聴こう~KENSO探求紀行~Vol.11

KENSO『エソプトロン』(1999年)清水義央によるセルフライナーノーツ

KENSOを結成したのは1974年、私が高校2年の時だった。
こんなに長くバンドをやっていれば体調が不良な時、気分が落ち込んでいる時もある。

1991年に『夢の丘』をリリースしたあと『LIVE’92』で一旦活動休止した時のことは両アルバムについての“KENSO探求紀行”に書いたが、1995年8月、KENSOは後に『ZAIYA LIVE』としてリリースされることになる吉祥寺シルバーエレファントでのライブで活動を再開する。

翌1996年秋、KENSOの活動再開という喜びにまかせて突っ走ってきて少々バテ気味だった私に、ストレスのかかる出来事が起き、気分は鬱に向かってしまった。曲は出来ず、1997年のライブ用に「陰鬱な日記」という新曲を書いたものの、この時点ではアイディア不足の不出来な曲であった(その後大幅に書き直し「天鵞絨症綺譚」に収録)。

1997年のライブは、症状なのか薬の副作用なのか分からないがオーディエンスが気づくほど手が震え、しかも自信のかけらもなく、メンバーの強力なサポートでやっと乗り切った感じだった。

しかし時は過ぎ、医師や家族の支えにより1998年の夏頃には回復、『エソプトロン(esoptron)』のレコーディングが開始された。ところが今度はいささかハイな状態になってしまっていた私は、それまで自作の曲に課していたハードルを下げてしまうことがあり、「この曲は即興演奏をしたものにダビングする」などいう奇異なアイディアを提示してメンバーを困惑させた、、、、、と思う(反省している)。

そんな状態であったが、辣腕ミュージシャンであるメンバーは私の意図をくみとって非常にパワフルな演奏をしてくれ、ファンの評価はどうあれ、前作『夢の丘』とはまったく趣の異なるアルバムとなった。

ギターテクニシャンの志村昭三さんが作ってくれた赤いストラトタイプのカスタムギターは、このアルバムから私のエモーションを伝え始め、現在に至るまで愛器となっている。

1曲目の「個人的希求」は光田健一くんのソロアルバム『僕は〇〇〇が好きなんだ!』の1曲目「Cry’n Smile」のリフとメロディを私が拝借し、19歳くらいの時に作ったハードロック調の曲と繋げた。

「願いかなえるこどもをつれてゆこう」は口ずさめるようなメロディと複雑なリズムを組み合わせた曲だが、前半部分の三枝俊治くんの秀逸なベースライン、そして中盤からの村石雅行くんの疾走感溢れるドラムが素晴らしい。

「湖畔にて」は小品ながら、ジョニ・ミッチェルに影響されたアコギの変則チューニングを使って、北海道の小さな湖畔で私が心の中に思い描いた幻想を表現した曲で、光田くんに「このセンスは清水さんならではのものです」と褒められた。嬉しかった。

「在野からの帰還」は前述の1995年活動再開ライブで初演したのだが、リハーサルで初めてこの曲を演奏した後、小口健一くんから「清水さん、これこのままやりますか?」という大変失礼な感想を言われ、ちょっとした不快感(笑)と危機感を感じて作り直した曲だ。今となっては率直に言ってもらえてよかったと思う。手前味噌になってしまうが、中間部のコードワークは「よくこんなの作れたな~」と感じる。

“4拍子のように聞こえる3拍子”の特徴あるヘビーなリフが魅力的、まさに小口ワールド全開の「Gips」や志村さんがゲストでギターソロを弾いている「Release Yourself」などハードロック色の濃い作品が多い本アルバムは、たしかに過度期の作品かもしれないが、『夢の丘』と違うものを作ろうとする気概、もっとダイレクトにロックしたいという心境などが窺い知れるアルバムだと思う。

長く活動しているロックバンドの音楽をたどっていくと、リスナーが「??どうしてこういうアプローチをしたのだろう?」というアルバムが必ずあるように感じる。そしてそれは次のアルバムへの布石であることも多い。『夢の丘』の発展型を望んでいたファンからは例えば「こんなアルバムを作ったことを素直に反省しろ」というような厳しい感想も頂いたが、『エソプトロン』があったから、次の『天鵞絨症綺譚』のオリジナリティに満ちたロックっぽさ、充実した音楽性を生み出すことが出来たのではないだろうか。

ジャケットが私の顔の写真だというのは、これはまったくもって申し訳ないというしかない。
「躁の悲哀」とはこのことだ。
こんなジャケットにしてしまったことは素直に反省してます。


■KENSO『エソプトロン』(1999年)
https://lnk.to/esoptron

■プレイリスト第1弾「KENSOの前にコレを聴け」
https://lnk.to/KENSO_Playlist1
■プレイリスト第2弾 「KENSOを聴け(初心者編)」
https://lnk.to/KENSO_Playlist2
■プレイリスト第3弾「KENSOを聴け(マニア編)」
https://lnk.to/KENSO_Playlist3

■プロフィール
清水義央 Yoshihisa Shimizu (Guitar)
小口健一 Kenichi Oguchi (Keyboards)
光田健一 Kenichi Mitsuda (Keyboards)
三枝俊治 Shunji Saegusa (Bass)
小森啓資 Keisuke Komori (Drums)

1974年、リーダーの清水義央を中心にKENSOを結成。バンド名は在籍校であった神奈川県立相模原高校の略称“県相”に由来する。1980年に自主制作盤1stアルバム『KENSO』をリリースし、1985年にキングレコードのNEXUSレーベルより3rdアルバム『KENSO(Ⅲ)』でメジャー・デビュー。以降、メンバーチェンジを経ながらも長きに亘って活動を継続。ロックをベースに、クラシックやジャズ、民族音楽といった様々なジャンルの要素を採り入れた音楽性や高度な演奏テクニックによって国内外で多くの支持を集め、海外のロック・フェスティバル出演経験も持つ日本屈指のプログレッシヴ・ロック・バンド。

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