lynch. 「TOUR’24 THE FIERCE BLAZE」新宿BLAZE ライブレポート到着!
5人組ロックバンド・lynch. 待望の新作『FIERCE-EP』をひっさげた夏のツアー「TOUR’24 THE FIERCE BLAZE」新宿BLAZE公演のライブレポートが到着!
梅雨明けもまだだというのに猛暑が続く、今日この頃の東京。7月11日、新宿方面はじめじめとした空気とはまったく無縁な状態にあった。歌舞伎町にあるライヴハウス、BLAZEで開催されていたlynch.のライヴの話である。去る6月26日に最新作『FIERCE-EP』をリリースした彼らは、7月7日の仙台公演を皮切りに『TOUR’24 THE FIERCE BLAZE』を開始したばかり。このツアー・タイトルは直訳すれば“猛烈な炎”ということになるが、文字通り立錐の余地のないほどに埋め尽くされたBLAZEのフロアは、その言葉通りの熱気に包まれた。
会場内は定刻の午後7時に暗転。扇動的なオープニングSEが流れ始めると同時に、満員のオーディエンスはそのビートに同調し、手拍子を始める。玲央(g)、晁直(ds)、明徳(b)、悠介(g)の順にステージ上に姿を現したメンバーたちが各々の配置に就き、最後に葉月(vo)が登場すると、実際の演奏が始まる前からクライマックスのような盛り上がりをみせる。このバンドに共鳴するファンが、このツアー開幕をいかに待ち焦がれていたかが伝わってくる瞬間だった。しかも実際に5人が音を鳴らし、いつものように葉月の口から宴の始まりを告げる挨拶の言葉が聞こえてくると、熱はさらに高まりをみせる。晁直のカウントに導かれて炸裂したオープニング・チューンは“UN DEUX TROIS”。その瞬間、筆者の目の前の視界が一気に開けたのは、それまで正面を向いていたオーディエンスが、まるで号令に従うかのように一斉にヘッドバンギングを始めたからに他ならない。
まさに身体に突き刺さるかのように研ぎ澄まされた強靭なバンド・サウンドと、その音の壁をしなやかに突き抜けてくる葉月の歌声。1曲目が始まった瞬間から、バンドが絶好調な状態にあることが伝わってくる。そこで驚くべきは、発売からまだ半月ほどしか経過していない『FIERCE-EP』からの選曲である“UN DEUX TROIS”が、早くも鉄板曲のような威力を持ち、オーディエンスを完全に巻き込んでいる事実だろう。曲がやはり同作からの“EXCENTRIC”へと移っても、それはまったく変わらない。ツアー2公演目でここまでタイトな演奏を繰り広げるバンドもさることながら、彼らに一瞬も後れを取ることのないファンの反応もすさまじい。まさに「このバンドにして、このファンあり」であり、その逆もまた真なり。ステージから一方的に熱が放射されるのではなく、バンドとオーディエンスの間に熱の交感が成立していて、いわば双方がお互いに火に油を注ぎ合っているのだ。
ツアー自体がまだ序盤であるだけに、以降の具体的な演奏内容について詳しくは触れずにおくが、ひとつ伝えておきたいのは『FIERCE-EP』に収録されている5曲はすべて披露されたという事実だ。しかもいずれの楽曲も冒頭の2曲と同様に、長年演奏され続けてきた代表曲かと見紛うような説得力を持ち、フロアに一体感をもたらしていた。ことに部分的に悠介がヴォーカルをとる“斑”は今後も彼らのライヴにおける見せ場のひとつになっていくはずだし、攻撃的な楽曲が続く中で異彩を放つ“REMAINS”の聴き手の胸に侵食してくるかのような味わい深さ、激烈さとダークな美意識のコントラストが際立つ“A FIERCE BLAZE”の存在感も印象的だった。しかもそうした最新EPからの楽曲を随所にちりばめながらも、lynch.のライヴに欠かすことのできない象徴的な楽曲たちも惜しみなく披露されていく。
彼らのライヴには本当に無駄な余白がなく、過度に勿体をつけることも必要以上に喋ることもない。最初から最後まで前傾姿勢のままガツガツと曲を繰り出していくその姿勢は、結成から20年を迎えている今も基本的には変わっていない。しかし、終盤に葉月の口から聞こえてきた「20年もやってきたからいい曲がたくさんある」といった言葉が示していたように、今現在の彼らの全力疾走にはちゃんとした裏付けがあり、必殺曲をどれほど連発しても武器が尽きることがないのだ。アンコールも含めて約100分に及んだこの日の演奏メニューには、必要なものがすべて揃っていたようにも思えたし、ちょっとした意外性を感じさせる選曲も含まれていたが、終演後になって定番曲と呼べるもののいくつかが披露されていないことにも気付かされた。そのこと自体がlynch.の歴史の重み、楽曲の層の厚さを実感させる。
タイトルに“BLAZE”という単語が含まれているだけに、この新宿BLAZEでの公演は今回のツアーにおける必須事項のひとつでもあったはずだが、実はこの会場自体は、この7月末をもって閉館することが決まっている。過去にも彼らは男性限定、女性限定の公演をはじめ、象徴的なライヴをこの場所で行なってきたが、ライヴハウスに愛着をおぼえるバンドとオーディエンス双方にとって、この夜のライヴもまた忘れ得ぬものになったに違いない。アンコール時、葉月はファンに対してだけではなく、スタッフや会場に対しても感謝の言葉を述べ「また生まれ変わって違う場所で会いましょう!」と発言していた。その言葉は、ひとつの会場が歴史を閉じてもまたどこかで新たな歴史が始まること、いかなる変化が訪れようともlynch.のライヴ・バンドとしての疾走には終わりがないことを示していたように思う。そして、このツアー自体もまだまだ続いていく。最終公演は9月4日、TOKYO DOME CITY HALLで実施されるが、それまでの経過の中で『FIERCE-EP』の楽曲たちがいかなる進化を遂げていくことになるのかが楽しみでならない。
文・増田勇一