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ドレスコーズ 10thアルバム『†』 当選者限定試聴会イベントの公式レポートが公開!

5月3日(土)に都内某所にて開催されたドレスコーズの通算10枚目となる最新アルバム『†』の、全編試聴会イベントのレポートが公開された。

2025年5月3日。都内某所にて行われた、ドレスコーズ10thアルバム『†』“宇宙最速爆音”試聴会に行ってきた。十字架を想起せずにはいられない作品タイトル、薄暗いフロア、ステージにはシスターのマネキンがひとつ。そしてそこで流れ出すロックンロール……私たちはまるで不届きな巡礼者だった。

ELRstoreにて予約対象期間内にアルバムを予約した人の中から、抽選で選ばれた人だけが参加したイベントだ。集まったのはざっと200人ほどだろうか。人気のないステージには、「ミスフィッツ」のMVで志磨遼平が着ていたシスターの衣装が置かれており、開演を待つ間にお客さんたちが撮影をしている。このマネキンがスポットライトを独占しており、なんというか、これを通して志磨遼平に見られているような気分である。定刻が近づき、登壇したスタッフからは、「本当に爆音なのでお気をつけください。スタッフも事前に聴いて驚きました……」と、注意喚起が繰り返された。始まる前からなんとも言えない不思議な空気である。そして気づけば暗転、鼓膜をつんざくような音圧で、ドレスコーズの10作目のアルバム『†』が再生された。

自叙伝なんて出したせいで、あの
なにもかもが気にくわなくって
蹴りあげてやりたくなるような
気持ちがよみがえってきました。
くそったれ、ニヒリズム
くたばれ、ポピュリズム
ぼくがいるだろ、ロックンロールだ
(志磨遼平手書きコメントより)

端的な予告があらかじめあった。志磨遼平が昨年上梓した自叙伝『ぼくだけはブルー』。その執筆をきっかけに再燃した、ロックンロールへの熱を詰め込んだアルバムという触れ込みである。『平凡』以降、『ジャズ』『バイエル』と作品を経るごとに自身のイメージから離れていった彼が、『戀愛大全』と『式日散花』を通過して、再びパブリック・イメージへと帰還する? 実際、音楽性についてはその通りだろう。なにしろ1曲目のタイトルからして「ヴィシャス」なのだ。全編を通して、志磨遼平が再びロックバンドと向き合ったような作風である。というか、これは彼が自身の「業」を引き受けたアルバムなのではないだろうか。

『ぼくだけはブルー』は志磨遼平の幼少期から、ドレスコーズ『1』をリリースするまでの歩みを記したもの。言い換えれば、彼がロックンロールに魅了されてから、メンバー全員が脱退し、ひとりぼっちになるまでの物語である。『†』のラストソングであり、先月リリースされたリードシングル「ミスフィッツ」ーー「はみ出し者」と名付けたこの曲で、彼は<どうやったって ひとりぼっち>と歌っている(今作には「やくたたず」なんて曲もある)。恐らく、この「ひとりぼっち」というフィーリングこそ、この音楽の通底音ではないだろうか。それはこの10年の活動形態を示すものでもあるし、それ以上に、自叙伝を書くことで図らずも浮かび上がってきた、自身の運命を綴ったものとも思われるリリックだ。「ぼくがいるだろ、ロックンロールだ」と豪語する時、同時に彼は開き直ったような趣で<最低><ひとりぼっち>と歌っている。

事前の予想通り、というか、このタイトルで元気がないわけはない。「ヴィシャス」は『戀愛大全』期のドレスコーズが奏でるガレージパンクという印象。ベースがめちゃくちゃ効いている、のっけからゴキゲンなバンドサウンドである。勢いはそのまま「うつくしさ」へ。どことなくザ・スミスを思い出したが、考える間もなくあっという間のビートで突き抜けていく。そしてヤバいのが3曲目の「リンチ」だ(タイトルは今年亡くなったデイヴィッド・リンチから?)。頭の数秒を聴いただけでノックアウトした。脳みそがビリビリと痺れるような傍若無人なギターが1曲を通して炸裂する、間違いなくこのアルバムの目玉だろう。

妖艶なイントロが印象的な「キラー・タンゴ」は、本作では一番最初にリリースされた楽曲だ。おぼつかない足取りで踊るような歪さがあり、<キルミー ぼくをさばいて>という一節からは狂おしい情念が溢れ出す。アルバム(しかも爆音)で聴くと全然印象が違う。「やくたたず」からは志磨遼平らしい物寂しさを感じた。後期の毛皮のマリーズーーつまり『ティン・パン・アレイ』や『THE END』の頃を思わせるようなうっとりとする歌があり、中盤に差し掛かった辺りから入ってくるストリングスが楽曲を盛り上げる。が、この人が歌うと逆説的に物寂しさの方が際立ってくるから面白い。「がっかりするわ」は彼が生まれた頃のニューミュージックを思わせる、ノスタルジックなメロディが印象的だ。それにしても、この曲で歌われる<イエー>の乾いた響きはなんだろう。10年前に発表した「スーパー、スーパーサッド」における、やけっぱちの「イエー!」とは全くもって反対の性質である。

「ロックンロール・ベイビーナウ」は頭から鳴っている素っ頓狂な音が頭から離れない。だが、楽曲としてはもしかしたら、今のドレスコーズが奏でるグラムロック解釈なのかもしれない。そして次の「ホエン・ホエア・ホワット」である。他の曲に比べると派手さはないが、本作でも随一のメロディだと思う。丸みのある音色が心地よく、鍵盤のフレーズが感傷的な気分を運んでくる。最後は既発曲がふたつ。「自叙伝のあとがき」として書いたというシングル「ハッピー・トゥゲザー」、そして件の「ミスフィッツ」である。

あっという間だ。トータル30分ちょっとじゃないだろうか? もう1回聴かせてくれ!という飢餓感を抱きながらお開きである。もしかしたら志磨遼平が作ったアルバムの中で一番短いのかもしれない。潔く、瞬発力があり、そして一貫した主張を感じるアルバムだ。

事前に公開されているアートワークに映る、なんとも恐ろしげな姿。お世辞にも美しいとは言い難いーー髪の毛は四方八方に逆立ち、どう見ても血色の悪い男がそこにいる。明後日のほうを向いている目は、間違いなく誰のことも信用していないだろう。さらに包帯を巻いているところから察するに、どうやら立てた中指さえも折られてしまったようだ。でも、それがなんだっていうんだ? 曰く、これが「志磨遼平が抱く、“ロックンロール”を想起させるもの」である。実際のところ、そもそもドレスコーズという音楽がどこを出発点に世に出ていったかというと、それはもちろん「Trash」ーーゴミ溜めの中からである。初めから美と醜が混在する場所からこの音楽は鳴っていた。

試聴会から4日後、最後の先行リリースとして「ヴィシャス」が配信された。当日聴き取れなかった歌詞に目を通すと、<最低の最低より最低 だれもぼくをすくえない>のあとには、<耐えられん>の連呼が続いてた。しかもそれでオーライ!と叫ぶのである。孤独で、不遜で、救いようがない。しかし、ここには活発な音と綺麗なメロディがある。だからこそ魅惑的なのだ。

Text by 黒田 隆太朗

ドレスコーズは遂に来週14日(水)発売となる『†』よりリード曲「ミスフィッツ」、「ヴィシャス」を先行配信中。リード曲「ミスフィッツ」はミュージックビデオも公開されているので、チェックをお忘れなく。イベント情報としては『†』発売記念インストアイベントのほか、6月からはアルバムを引っ提げたツアーの開催を予定しており、ツアーのチケットは現在一般発売中。また、7月31日(木)にはGEZAN 47+TOUR「集炎」への出演も決定している。その他、今後のドレスコーズの情報は公式HP・SNSなどで発表されるので是非チェックしよう。


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