プログレを聴こう~KENSO探求紀行~Vol.9

KENSO『うつろいゆくもの』(2006年)清水義央によるセルフライナーノーツ

2003年、某ミュージシャンのツアーのために急遽出演できなくなった村石雅行くんの代役として、それまでも何度か「もしかしたら、ピンチヒッターをお願いすることになるかも」と話していた小森啓資くんにドラムを叩いてもらうことになった。

本当に大変だったと思うが、とても誠実に熱意を持って取り組んでくれたおかげで、私の母校であり、KENSOというバンド名の由来でもある神奈川県立相模原高等学校の創立40年記念式典でのライブとその2日後、初めての川崎クラブチッタでのライブは大成功を収めた。特にクラブチッタでのフラメンコ・カンテの川島桂子さんをゲストに招いたライブはバンドと聴衆が一体となった、何か“気”のようなものがぐるぐると渦巻くライブであった。

2004年に小森くんがKENSOの正式メンバーとなり、バンドにまたしてもエナジーが充満してきたのに刺激され私は曲を作り始める。

本アルバムに収録された「あの頃モビーディックと」は最初、WINGSの「Jet」みたいなキャッチーなロックナンバーをイメージして作り始めた。タイトルは、KENSOの映像作品を何作も手がけてくれた野呂政幸さんに紹介されて大感動したロック映画「あの頃ペニーレインと」とLED ZEPPELINのドラムソロを中心とした(というかほとんどドラムソロ)曲「Moby Dick」を併せたもの。私にとってのジョン・ボーナム、小森くんの加入記念的な意味合いを込めた。

この時期のKENSOのポテンシャルを極限まで高めてくれたのは2005年7月にアメリカ・ペンシルバニア州のベツレヘムで開かれた“NEAR FEST”への出演であろう。機材トラブルや体調不良など本当に色々な事があったが、5人が一致団結してそれらを乗り越え、KENSOの存在を世界のプログレシーンにこれ以上ない形でアピールできた最高のライブだった。

これにより一体感を増したバンドは「全員がオリジナル曲を提供するアルバム」というKENSO史上、初めての試みへ向けて疾走し始めた。

今回、大人の事情で一斉配信とならなかった前作『天鵞絨症綺譚』に収録された光田くんの永遠の名作「Echi dal Foro Romano」は、クラシックの作曲を学んだ彼ならではの曲だと思うが、本アルバムの「Rhyme-stone in Cotswolds」は更にそれを推し進め、私の印象ではピアノコンチェルトとロックンロールが高い次元で合わさったような曲だ。

バークリー音楽大学を首席で卒業した三枝俊治くんの「A Single Moment Of Life」はそれまでのライブではベースソロ曲として演奏していたが、それに大幅加筆して発展させ、更に三枝くんの中学生時代の後輩である光田くんの先輩愛溢れるキーボードが大いに曲を豊かなものにした。私もこの曲に儚く繊細なイメージを加えるため、久しぶりに清水家の秘境からポルトガル・ギターを出してきて弾いた。

小森くんの「木霊の舞う情景」は、ドラムのレコーディング時にエンジニアを含め彼が何をしようとしているのか(もちろんドラムを叩いているんですけど)分からず、何に納得できないのか分からず、私は申し訳ないけれど深夜1時を回ったあたりで帰らせてもらった。最後まで付き合った三枝くんから明け方に届いたメールに「今日私は真のスーパードラマーを見ました」と書いてあったのが忘れられない。その後“人生意気に感ず”、メンバーはこの曲をより良い作品にすべく全力を注ぎ込んだのである。

小口くんの「GOS」、最初デモを聴いたときは、正直この曲に自分が何をなすべきかよく分からなかったが、ギターをダビングしていくうちにこの曲の真髄、その真骨頂が感じられてきて震撼すると共にエキサイトしどんどんアイディアが湧いてきた。小口曲はいつでもカッコいい!いささか手前味噌になるが、著名マスタリングエンジニアの小泉由香さんがマスタリング時に「すごい曲」と呟いた(それは私にとって勲章の様なモノです)

「ウブド寝入りばな幻聴」は私の作品の中でも指折りの変な曲。当時ハマって毎年のように行っていたバリ島体験の総決算のようなこの曲では、バリの伝統あるガムラン楽団を渡り歩いたルバブ奏者の南部弘さんに客演していただいた。

今回、私の作ったプレイリストが公開されているが、「ウブド〜」のギタープレイには、そのプレイリスト「KENSOの前にコレを聴け」で挙げているXTC「Wake Up」からの影響があるのだが、皆さん分かるかな?

アルバム最後の「コドン1」「コドン2」「コドン3」は、小森くんと川島桂子さんによる全くの即興演奏に私、小口、光田の3名がそれぞれ秘密裏に(笑)ダビングを加えていくという今までのKENSOには無かった手法による実験的な作品だ。音楽は勝ち負けではないが、完成した二人の作品を聴いたとき「くそっ!負けた」と思った。まだまだ修養が足りんかったなあ2006年の私。

以上『うつろいゆくもの』は、39歳〜49歳の中年男どもが作ったとは思えないエネルギッシュで濃〜いアルバムです。


■KENSO『うつろいゆくもの』( 2006年)
https://lnk.to/UtsuroiYukuMono

■プレイリスト第1弾「KENSOの前にコレを聴け」
https://lnk.to/KENSO_Playlist1
■プレイリスト第2弾 「KENSOを聴け(初心者編)」
https://lnk.to/KENSO_Playlist2
■プレイリスト第3弾「KENSOを聴け(マニア編)」
https://lnk.to/KENSO_Playlist3

■プロフィール
清水義央 Yoshihisa Shimizu (Guitar)
小口健一 Kenichi Oguchi (Keyboards)
光田健一 Kenichi Mitsuda (Keyboards)
三枝俊治 Shunji Saegusa (Bass)
小森啓資 Keisuke Komori (Drums)

1974年、リーダーの清水義央を中心にKENSOを結成。バンド名は在籍校であった神奈川県立相模原高校の略称“県相”に由来する。1980年に自主制作盤1stアルバム『KENSO』をリリースし、1985年にキングレコードのNEXUSレーベルより3rdアルバム『KENSO(Ⅲ)』でメジャー・デビュー。以降、メンバーチェンジを経ながらも長きに亘って活動を継続。ロックをベースに、クラシックやジャズ、民族音楽といった様々なジャンルの要素を採り入れた音楽性や高度な演奏テクニックによって国内外で多くの支持を集め、海外のロック・フェスティバル出演経験も持つ日本屈指のプログレッシヴ・ロック・バンド。

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