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キング伊福部まつりの掉尾を飾るコンサートの実況録音盤発売を記念して、当日のコンサートレポート公開

伊福部昭総進撃

2025年12月17日(水)に『伊福部昭総進撃~キング伊福部まつりの夕べ 実況録音』がキングレコードより発売となる。このCDは、日本音楽界の巨星 伊福部昭が生まれて110年、そして伊福部昭が音楽を手掛けた映画『ゴジラ』が1954年に公開されてから70年となる記念として開催された「キング伊福部まつり」のフィナーレとして、5月26日(月)に東京オペラシティコンサートホール:タケミツ メモリアルにてキングレコードが開催したコンサートをそのままに詰め込んだもの。1983年に日比谷公会堂で開催され伊福部昭ルネサンスのきっかけとも名高い伝説のコンサート「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」の再演とされ、約40年の時を越えて待ち焦がれたファン達へと贈られた熱狂のコンサートは、令和の伊福部昭ルネサンスを引き起こしたと言っても過言ではないだろう。この貴重な実況録音盤発売を記念して、当日のコンサートレポートが到着。

伊福部昭総進撃

昨年、生誕百年を迎えた作曲家の伊福部昭。現在では『ゴジラ』をはじめとした映画音楽で広く知られているのはもちろんのこと、純音楽作品においても、ここ10数年の間に国内外で演奏される機会が格段に増えている。20世紀初頭に生まれた日本の作曲家で、今日ここまで注目を集めるに至ったケースは、伊福部を於いて他にはないと言えるだろう。

さて、キングレコードでは昨年より「キング伊福部まつり」と銘打ち、様々な企画や催しを展開してきたが、その集大成とも言えるコンサート「伊福部昭総進撃 〜キング伊福部まつりの夕べ」が、去る5月26日(月)に東京初台のオペラシティコンサートホールにて行われた。

全体はピアノ及びオルガンによる第1部、そしてオーケストラによる映画音楽に焦点を当てた第2部、純音楽作品を取り上げた第3部と、盛り沢山の全3部構成。まさに「まつり」に相応しい内容である。

まず第1部は《子供遊びのためのリズム遊び》、《ピアノ組曲》の2作品で、いずれも松田華音の演奏による。モスクワ音楽院を首席で卒業した松田はロシアものを得意とする一方、在学中に研究テーマとして伊福部を取り上げたこともあり、国内では、2020年12月には井上道義 指揮NHK交響楽団と共演しての《ピアノとオーケストラのためのリトミカ・オスティナータ》も大きな話題となった。

さて、《子供遊びのためのリズム遊び》は、元々は教育用のSPレコード収録を前提に作曲された全10曲から成る一管編成の小品で、ここから門下の永瀬博彦が9曲をピアノ独奏のために編曲(※下総皖一の「野菊」が含まれていたがオミット)。今回はその中から「運動会行進曲」、「楽しい学校」、「場所とり鬼」の3つが選ばれたが、中でも軽快なリズムも愉しい「運動会行進曲」、「場所とり鬼」は、特撮映画の音楽に通じるモチーフを持ち、特撮ファンも楽しめたのではないだろうか。

伊福部昭総進撃松田華音

続いては伊福部にとっての事実上の第一作となる《ピアノ組曲》。作品は東北の伝統行事に材を採った「盆踊」、「七夕」、「演伶」、「佞武多」の4曲から成り、松田の演奏はCD「伊福部昭の芸術 13 易」でも聴くことができるが、彼女がコンサートで取り上げるのは、この日が初の機会となった。演奏に当たっては、作曲から58年を経た1991年に伊福部が編んだオーケストラ版(※《管絃楽のための日本組曲》)を意識したという松田は、力強いタッチでダイナミックに弾きこなす一方、「七夕」での静謐な表現にも引き込まれるものがあった。

第1部のトリを飾るのが、《SF交響ファンタジー第1番》(パイプオルガン版)。詳細は後述するが、原曲は有名な「ゴジラのテーマ」を含む特撮映画の音楽をまとめた管弦楽曲で、これを門下伊福部門下の作曲家・和田薫が編曲。本作はオルガニスト・石丸由佳のCD「死の舞踏~悪魔のパイプオルガン」のために編まれた楽曲で、当日は舞台初演者でもある石丸が演奏し、パイプオルガンの重低音が会場を包み込んだ。演奏後のMCコーナーでの本人の発言によれば、独自解釈によりクラスターでゴジラの鳴き声の再現も試みられたとのことで、こうしたアプローチにも興味深いものがあった。

伊福部昭総進撃石丸由佳

第2部からはオーケストラパートとなり、東京フィルハーモニー交響楽団が登場。ここでは和田薫が指揮を務める。《SF交響ファンタジー第1~3番》は、東宝特撮映画の音楽をメドレー形式で編曲した三部作。いずれも1983年に開催された伝説の演奏会「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」で初演されている。伊福部本人はこれ一度限りのつもりであったが、前述したように「SF交響ファンタジー第1番」には、「ゴジラのテーマ」が含まれていることもあり、現在ではプロアマ問わず各地のオーケストラで度々演奏される人気のレパートリーとなっている。反面、第2、3番は演奏頻度が極端に低く、3部作通しての演奏は、オフィシャル企画としては滅多にない貴重な機会となった。この日は、42年の歳月を経た「SF特撮映画音楽の夕べ」の再現演奏会といった意味合いを持ち、聴衆の多くが楽しみにしていたプログラムだったのではないかと思う。

伊福部昭総進撃和田薫

第3部は、《交響譚詩》と《シンフォニア・タプカーラ》の純音楽(クラシック)作品で、ここからは、現在ではベトナムを拠点に活躍している本名徹次の指揮となる。本名は伊福部が監修したCD「伊福部昭の芸術6 亜伊福部昭の芸術7 幻」や、先頃リリースされて話題のBlu-ray「伊福部昭 90歳記念コンサート」など、伊福部ゆかり指揮者のひとりで、まさに適材適所と言える起用である。

《交響譚詩》は、1943年に発表された二管編成の管弦楽曲で、コンクール受賞作として、当時レコード化もされたこの時期の代表作。作品は次兄・勲のレクイエムとして作曲され、今回のような記念すべき機会での演奏も永きにわたる伊福部の作曲家人生を想起させる。

そして、メインプロは、《シンフォニア・タプカーラ》。作品は伊福部が幼少期に接したアイヌへの共感とノスタルジーに基づいて作曲された唯一の交響曲で、1954年にフェビアン・セヴィツキー指揮のインディアナポリス交響楽団と海外で初演。現在は1979年の改訂版で広く演奏されている。全体は急緩急の3楽章形式で、本名は両端楽章で、その情熱を爆発させる一方、伊福部が少年時代を過ごした帯広の原野をあらわした雄大な2楽章を情感たっぷりに指揮して見事に表現せしめた。

当日はアンコールが用意されていた。会場からの盛大な拍手を経て再び登壇した本名が指揮したのは《オーケストラのためのロンド・イン・ブーレスク》。これもまた「伊福部昭SF特撮映画音楽の夕べ」で初演された作品(※原曲は吹奏楽のオーケストラ版)で、要はこれを以て「SF特撮映画音楽の夕べ」のプログラムを完全再現するという、実に粋な趣向であった。作品は特撮映画音楽とも共通する素材を持ち、その圧倒的な音圧とリズム・オスティナートに多くのファンが酔いしれ、足掛け3時間にも及ぶ盛大な祭りの一夜は幕を閉じた。

Information

伊福部昭総進撃~キング伊福部まつりの夕べ 実況録音

伊福部昭総進撃~キング伊福部まつりの夕べ 実況録音

発売日:2025年12月17日(水)
品番:KICC-1638~9
価格:¥5,500 (税込み)
ご購入:https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICC-1638/
配信:https://king-records.lnk.to/dvtnJc

【アーティスト】
石丸由佳(オルガン)、松田華音(ピアノ)、和田薫(指揮)、本名徹次(指揮) 東京フィルハーモニー交響楽団

【収録曲】
CD1
伊福部昭:
01. SF交響ファンタジー第1番(和田薫編曲オルガン版)
石丸由佳(オルガン)

02. SF交響ファンタジー第1番
03. SF交響ファンタジー第2番
04. SF交響ファンタジー第3番
和田薫 指揮 東京フィルハーモニー交響楽団

CD2
01-03 こどものためのリズム遊び(抜粋)
運動会行進曲/楽しい学校/場所とり鬼
04-07 ピアノ組曲
盆踊/七夕/演伶/佞武多
松田華音(ピアノ)

08-09 交響譚詩
10-12 シンフォニア・タプカーラ
13. ロンド・イン・ブーレスク
本名徹次 指揮 東京フィルハーモニー交響楽団

2025年5月26日 東京オペラシティコンサートホールにおけるライヴ録音

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