ケツメイシ・大蔵、輪入道も参戦!! ヒプアニ2期音楽集『Welcome 2 Rhyme Anima +』全曲レビュー
Zeebra、KREVA、Creepy NutsといったHIP-HOPの第一線で活躍するアーティストたちによる楽曲提供で話題を呼ぶ大人気音楽原作キャラクターラッププロジェクト『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』、通称『ヒプマイ』。アニメ業界だけでなくHIP-HOP業界にも大きな影響を与え続けている『ヒプマイ』の3年ぶりとなるTVアニメ第2期「ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rhyme Anima +」が2023年10月から12月にかけて放送されたのは記憶に新しい。第二回ディビジョン・ラップバトル終了直後に発生した一般市民の暴徒化事件。事件の裏に浮かび上がるDJグループ「TBH」を追うために奔走する6チーム18人の活躍が描かれている。
そんなTVアニメの全楽曲を収録したアルバム『Welcome 2 Rhyme Anima +』が1月10日(水)にリリースされた。DISC1にはTVアニメのOP・EDテーマに加え、全13話の各話数で披露された劇中ラップが、DISC2にはアーティストとしても活動中のコンポーザーR・O・Nが手掛けた珠玉のサウンドトラックが収録されている。
※本文内にストーリーのネタバレを含む箇所がございます。
M1「RISE FROM DEAD」/ Division All Stars
(作詞・作曲・編曲invisible manners)
TVアニメ第1期からナゴヤ・ディビジョン“Bad Ass Temple”とオオサカ・ディビジョン“どついたれ本舗”の6人が加わり、総勢18人での歌唱となったOPテーマ。TVサイズのOPテーマに18人の歌唱を詰め込むという難題に120%答えたこの楽曲は、次々と繰り出されるパンチライン高めのリリックと耳に残るトラックが印象的。フルサイズでも3分40秒と18人全員曲としては歴代最短。高速で紡がれるリリックにしっかりフロウを乗せられる声優陣の技量の高さには改めて感嘆せざるを得ないだろう。
さらにこの楽曲はTVアニメ第2期の物語のテーマもしっかり織り込まれており、特に「這い上がれよ」から始まるサビのリリックは、18人から〝とある重要キャラクター〟へのエールとなっているのではないだろうか。最終話を見終えたタイミングでまたこの楽曲を聴いてもらいたい。
M2「Bring it on」/ イケブクロ・ディビジョン“Buster Bros!!!”
(作詞:Ryohu / 作曲・編曲:Neetz)
ここからは劇中ラップのターン。先陣を切るのはBuster Bros!!!だ。第1話で披露された3兄弟の息の合ったラップは、彼らの自信の強さと立て籠もり犯への容赦ないディスが共存する実力確かなライムが強く印象に残る。また、山田二郎の猫探し、山田三郎の相談サイトの立ち上げなど、リリックには劇中の描写がさらりと入れ込まれていたりするのも面白い。彼らのラップが日常から生まれているのだと再認識できるはずだ。
楽曲は昨年3月に“終演”を迎えたヒップホップクルー・KANDYTOWNのRyohuが作詞、Neetzが作曲・編曲を担当。彼らが得意とする現代東京のシティ感は少し控えめながらも、オシャレなトラックと3兄弟の絆と正義感の融合は新たな化学反応を生んでいると言っていいだろう。
M3「ジンギ(Pay Respect)」/ ヨコハマ・ディビジョン“MAD TRIGGER CREW”
(作詞:peko、KennyDoes、ぽおるすみす / 作曲・編曲:TAKAMICHI TSUGEI)
碧棺左馬刻の威圧的なギャングスタ・ラップ、入間銃兎の畳み掛ける高速フロウ、毒島メイソン理鶯のドスの効いた低音ラップといった各々の持ち味に、第2話のキーマンである“伝説の渡世人”の仁義口上ラップが掛け合わされたのが、極道な雰囲気が漂う本曲だ。ワウ音多めで唸りまくるギターの音色も彼らのソリッドなフロウの良いアクセントになっている。一方で、1st FULL ALBUM「Enter the Hypnosis Microphone」に収録されている彼らの持ち曲「シノギ(Dead Pools)」のセルフオマージュと思えるような曲名や、EDテーマの作詞者としても名をつらねるICE BAHNのFORKによる有名なパンチラインをリスペクトした3人の名乗りなど、わかる人にはわかるネタがさりげなく散りばめられているのも興味深い。
M4「SANITY」/ ナゴヤ・ディビジョン“Bad Ass Temple”
(作詞:輪入道 / 作曲・編曲:A.G.O)
インド音楽のような妖しげなトラックと、難解な言葉を駆使したテクニカルなリリックが合わさった一風変わった楽曲。「SANITY」=「正気」というタイトルどおり、聴く者の正気を試すような独特な空気が感じられるラップになっている。作詞は『ヒプノシスマイク』には初提供となる人気ラッパー・輪入道が担当。Bad Ass Templeの3人の魅力を表現しつつ、的確に韻を踏む熟達したライムは流石の一言だ。敵を倒すのではなく洗脳を解いて更生させるというリリックの方向性も、僧侶や弁護士がメンバーのBad Ass Templeらしい部分と言えるだろう。
M5「New World」/ オオサカ・ディビジョン“どついたれ本舗”
(作詞:ALI-KICK / 作曲・編曲:SOIL&“PIMP”SESSIONS)
アルバム収録曲のなかでも随一のオシャレさを放つ、いわゆる“ジャジーヒップホップ”などついたれ本舗の楽曲。曲名を大阪の観光スポット・新世界と掛けていると思われるユーモアさも“らしさ”が感じられる。この楽曲は「挫折した芸人へ向けた奮起を促す」ラップ。それを伝える3人のリリックとフロウにも個性が滲み出ており、同じ芸人としてコミカルに表現する白膠木簓、正しい道に導くような柔和さが印象的な躑躅森盧笙、発破をかけるリリックとバリトンボイスで魅せる天谷奴零。ピアノやブラスの音色を押し出したトラックも相まって、楽曲からは大人の余裕が伝わってくるに違いない。
M6「Dive in」/ シンジュク・ディビジョン“麻天狼”
(作詞:SKRYU / 作曲:Noconoco、SAME、SKRYU / 編曲:Noconoco、SAME)
アンニュイなトラックも多い麻天狼だが、このラップが披露された第5話は伊弉冉一二三にスポットが当たったホストクラブの話だったこともあってか、どちらかといえば明るい、大人な雰囲気が薫るナンバーになっている。優雅ささえ感じられるサビのユニゾンも耳心地が良く、麻天狼3人の声の相性の良さを再認識できるはずだ。作詞は銀行員からラッパーへと転身した異色の経歴を持つSKRYUが担当。今作でも独特なワードセンスは健在で、「力ずくでは奪えないBest life 気づいた奴から Dive in 別世界」「なかなか鳴かねぇホトトギスには鳴くまで頭を下げてきた」など、ウィットに富んだフレーズを終始浴びせてくれる。
M7「AN IDOL」/ シブヤ・ディビジョン“Fling Posse”
(作詞:OHTORA、Rin音 / 作曲:maeshima soshi、OHTORA、Rin音 / 編曲:maeshima soshi)
各キャラクターの個性に溢れた1番の軽やかなバースを経て、2番では3人で入れ替わり立ち替わりリリックを紡いでいく。Fling Posseの技術の高さとチームワークの良さが存分に堪能できる楽曲だ。また、OHTORAとRin音が作詞を担当したリリックも興味深いフレーズが多い。特にサビの「憧れから切り開くFakeもやがてOriginal」というフレーズは、飴村乱数を始めとしたFling Posseの3人が歌うからこそ重みが増す言葉だ。Fling Posseを真似た「TBH」が、偶像を意味する「IDOL」から真の「アイドル」となる。後味の爽やかさもこの楽曲の魅力の1つだろう。
M8「We go with the flow」/イケブクロ・ディビジョン“Buster Bros!!!”&ナゴヤ・ディビジョン“Bad Ass Temple”
(作詞:sty 作曲:Dirty Orange、sty 編曲:Dirty Orange)
山田一郎と波羅夷空却がかつて組んでいたチーム・NaughtyBustersを彷彿とさせる、Buster Bros!!!とBad Ass Templeの息の合った激アツ共闘ラップ。Buster Bros!!!からの「共同作業でやれんのか?どうぞ」という煽りを、Bad Ass Templeが「応答!」と韻を踏みながら勢いよく応える一連の流れなど、お互いの得意なフィールドでバチバチに高め合う様はこれまでのバトル曲とは違った味を感じさせる。聴けばわかるが、この楽曲はとにかくライブ向き。アップテンポでファンキーな6人のフロウ、メリハリの効いた強烈なトラック、サビの「hooh hooh」の合いの手。オーディエンスを沸かせる要素が盛りだくさんだ。
M9「PUMP IT UP」/ヨコハマ・ディビジョン“MAD TRIGGER CREW”&オオサカ・ディビジョン“どついたれ本舗”
(作詞:Kohei by SIMONSAYZ / 作曲:Kohei by SIMONSAYZ、R・O・N / 編曲:R・O・N)
コミカルなどついたれ本舗と苛烈なMAD TRIGGER CREW。2組の共闘ソングがテーマパークの雰囲気を入れ込んだエレクトロスイングラップになるとは誰が予想しただろうか。高音と重低音のバランスが取れた6人のユニゾン、耳に残るビート、バックで荒れ狂うブラスライクなサウンドなど、一聴しただけで覚えてしまうぐらい楽曲のインパクトは抜群だ。この曲の最も面白い部分は、お互いの特徴を掛け合わせたことによって「ポップなMAD TRIGGER CREW」「攻撃的などついたれ本舗」という化学変化が生まれている点。これぞ共闘の醍醐味と言えるだろう。
M10「FIGHTER’S ROAD」/シブヤ・ディビジョン“Fling Posse”&シンジュク・ディビジョン“麻天狼”
(作詞・作曲・編曲:CHI-MEY)
山田一郎と碧柩左馬刻のデュエット曲「Nausa de Zuiqu」や、伊弉冉一二三と観音坂独歩のデュエット曲「Wrap&Rap ~3分バイブスクッキング~」など、これまで『ヒプマイ』に一風変わった楽曲を提供しているマルチアーティスト・CHI-MEY。そんな彼がプロデュースした新たなラップが、『西遊記』をモチーフにしたFling Posseと麻天狼の共闘ソング「FIGHTER’S ROAD」だ。6人が劇中で着ている『西遊記』のキャラクターの衣装になぞらえた各人のバースは、「千軍万馬」「豚に真珠」など四字熟語や慣用句を駆使しながらしっかりと韻を刻むテクニカルなライムが印象的。そんなリリックをクラシカルな中華風サウンドに乗せて遊び心満載な6人のフロウで紡いでいくのだから、聴いていて楽しくならないわけがない。「FIGHTER’S ROAD」のフレーズを繰り返し、どんどん盛り上がっていく終盤の展開も聴きごたえ十分だ。
M11「BATTLE ANIMA +01」/TBH・キアロ&スクーロ VS Division Leaders
(作詞・作曲・編曲:invisible manners)
各ディビジョンのリーダー6人とTBHら3人(TBH・キアロ・スクーロ)による4小節のバトルラップ。怒涛の勢いで韻を踏んで相手を蹴散らそうとするTBH・キアロ・スクーロによる苛烈なラップに対し、リーダーたちはそれぞれの個性と自由に溢れたライムとリリックで対抗している。ヒーリングラップで主導権を取り返す神宮寺寂雷、頭韻・脚韻をさらりと踏んで煙に巻く白膠木簓、独特のワードチョイスとポップな語感で魅せる飴村乱数、高圧的にまくし立てる碧棺左馬刻、テクニカルなフロウで堂々と勝負する山田一郎、熱い正義感で敵を説く波羅夷空却。2分15秒とは思えないほどの密度の濃さだ。
M12「BATTLE ANIMA +02」/キアロ VS Division All Stars -3rd Team-
(作詞・作曲・編曲:invisible manners)
劇中の第11話では8小節+6小節でバトルに臨むキアロに対し、3rdチームの6人は各2小節のみという変則構成で行われたバトルラップ。2小節のみでも6人の個性が存分に発揮されたリリックとなっているが、やはりこのバトルの注目はAIが正体であるキアロのラップパートだろう。アンサーとなった2度目のラップでは、3rdチームのラップを学習し、「盤上遊戯」「謀る」「裁判」といった6人の特徴を印象付ける単語を入れ込んだリリックや、2小節ごとのフロウの変化など、AIであることの強みを生かしたラップが繰り広げられている。
M13「BATTLE ANIMA +03」/スクーロ VS Division All Stars -2nd Team-
(作詞・作曲・編曲:invisible manners)
劇中第12話に登場した本曲は、シンセやギターの音色を押し出したドープなトラックが印象強いラップ。怒りとディープラーニングでどんどんボルテージが上がっていくAI・スクーロのラップはバトルの盛り上がりを否が応でも高めてくれる。12小節のスクーロのラップに対して2小節×6人で休みなくアンサーを返し、ラストに6人全員のラップで締めるバトルの構成も美しい。6人の連帯感が強く表れた1曲になっている。
M14「RELIEVE」/開闢門鬼哭 VS Division All Stars
(作詞・作曲・編曲:invisible manners)
前半と後半で雰囲気がガラリと変わる、ドラマ性の高い楽曲。前半はバチバチにラップで殴り合っていたAIを裏で操るIT企業BGグループのCEO・開闢門鬼哭とDivision All Starsだが、後半では苦悩する開闢門にDivision All Starsが手を差し伸べるという構図になっている。光が差し込むような希望に満ちたトラックとポジティブなフロウによって、聴いた後は清らかな気持ちになれることだろう。開闢門の低音ラップは、「黯然銷魂」「鬼哭啾啾」といった難解な単語を数多く混ぜながら息継ぎする間もなく畳みかけてくるため迫力は満点。「既読スルー」「マグマスープ」といったポップなワードを随所に入れ込んでいることもあり、リリックの自由度は結構高めだ。
M15「Next Stage」/Division All Stars
(作詞:焚巻、FORK(ICE BAHN)、玉露(ICE BAHN)、KIT(ICE BAHN)、たなか、GADORO、SHINGO★西成、アフロ、大蔵 from ケツメイシ / 作曲・編曲:大蔵 from ケツメイシ)
ケツメイシのリーダー・大蔵が作詞・作曲・編曲を担当した、ホッと一息つけるようなEDテーマ。ケツメイシの特徴であるメロディアスでメロウなラップは大団円でピースフルな雰囲気に良く似合う。素直な言葉で紡いだサビの安定感と安心感は、ベテランだからこそ出せる味なのかもしれない。一方で、焚巻やSHINGO★西成といった著名なラッパーたちによって綴られた各ディビジョンのバースは、18人の個性が存分に表れたリリックが印象的。Bad Ass Templeのパートではギターの音が、麻天狼のパートではピアノの音色が強調されるなど、ディビジョンごとに異なるアレンジも注目点。物語の余韻を感じ取ってもらいたい。
M8~M10の共闘ラップやM11~M14のバトルラップが象徴的だが、アニメ内のシチュエーションを踏まえたリリックやトラックも多く、アルバム単体としてだけでなく劇中映像と一緒に楽曲を聴いてみることをオススメしたい。TVアニメ第2期を経たことで彼らのラップがどのように熟成されていくか、今後の展開も目が離せない。
Information
ヒプアニ2期音楽集『Welcome 2 Rhyme Anima +』
発売日:2024年1月10日
品番:KICA-3303~4(CD2枚組)
定価:¥5,500(税抜価格 ¥5,000)
※初回生産分のみアニメ描き下ろしBigサイズジャケット(265mm×265mm)
収録曲:
01.RISE FROM DEAD / Division All Stars
02.Bring it on / Buster Bros!!!
03.ジンギ(Pay Respect)/ MAD TRIGGER CREW
04.SANITY / Bad Ass Temple
05.New World / どついたれ本舗
06.Dive in / 麻天狼
07.AN IDOL / Fling Posse
08.We go with the flow / Buster Bros!!!・Bad Ass Temple
09.PUMP IT UP / MAD TRIGGER CREW・どついたれ本舗
10.FIGHTER’S ROAD / Fling Posse・麻天狼
11.BATTLE ANIMA+01 / TBH・キアロ&スクーロ VS Division Leaders
12.BATTLE ANIMA+02 /キアロ VS Division All Stars -3rd Team-
13.BATTLE ANIMA+03 / スクーロ VS Division All Stars -2nd Team-
14.RELIEVE /開闢門鬼哭 VS Division All Stars
15.Next Stage / Division All Stars
【DISC2】
01. Ill Omen
02. Streets of NAGOYA
03. Streets of OSAKA
04. TBH
05. Lively Days
06. That Day
07. Time Ticking Away
08. Mob Rule
09. Chuji’s Theme
10. Who’ll Show Up?
11. Vibrant Nightlife
12. Welcome to Our Park
13. Underground Rap Battle
14. Battle in Progress
15. Desperate Situation
16. Ninja
17. In Despair
18. Tough Memories
19. Their Future
20. Hopeful Future
購入はこちら
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