【ベルウッド・レコード50周年】 PICK UP LIBRARY 第2回

ベルウッド・レコード設立50周年を記念して2022年秋、初期の名盤アルバムがダウンロード/サブスクリプション/ハイレゾにて配信開始!
ベルウッド・レコード往年のファンはもちろん、配信で初めて耳にする方にもまずはこれを聴いて欲しい、必聴タイトルをピックアップしてキングレコードスタッフがご紹介していきます。
▶︎高田渡「ごあいさつ」

1971年にリリースされた高田渡のメジャーレーベルにおける最初のアルバム。

本作は、シングルで発売された「自転車にのって」「コーヒーブルース」に加え、URCレコード時代のアルバムにも収録された「銭がなけりゃ」「日曜日」「しらみの旅」(いずれも新録)、高田が生涯で最も多く歌ったであろう「生活の柄」など、挙げればキリがないほどの有名曲・人気曲が収録されたベスト盤とも思えてしまう作品だ。

それまでの高田の作品は、ギター1本での弾き語りによるラフなスタイルでの録音が主であったが、本作では はっぴいえんどや中川イサトといった豪華メンバーによるバッキングを従えたスタジオ録音という点でサウンドにも重点が置かれた挑戦的な1枚であったと言える。特に「自転車に乗って」や「銭がなけりゃ」では、この編成ならではのサウンド・展開を味わうことができる。

復刻CDで本作を聴いてきたリスナーにとっては馴染み深いボーナストラック「自転車にのって(ファンキーヴァージョン)」は、1972年発売の「フォーク・ギター」に収録されたもので、中川イサト、鈴木茂、細野晴臣、林立夫による演奏に加え、コーラスには矢野顕子というこちらも豪華なメンバーによる録音だ。

詩の面では、自身の私生活から生まれた「コーヒーブルース」や「日曜日」、演歌師の添田唖蝉坊や高田が生涯に渡って歌い続けた沖縄生まれの詩人 山之口貘による詩などがバランスよく散りばめられているのも本作の特徴であると言えるであろう。

本作は、第1回のコラムで紹介した「私は月には行かないだろう」と同じく、ベルウッド・レコード設立前にNEWSレーベルからリリースされ、後にベルウッド・レコードから再販された作品である。しかし、こちらは再販の際にジャケットデザインの変更はなく、キングレコード・NEWSレーベルのロゴがベルウッドのロゴへと変わっているのみであった。

ただ、高田とベルウッドのロゴには他のアーティストにはない繋がりがある。ベルウッドのトレードマークともいえるこのマツボックリが描かれた特徴的なロゴのデザインは、高田渡の兄である高田驍によるものである。

〇キングレコード盤:SKD-1002 (1971年リリース) 

<参加ミュージシャン>
高田渡
はっぴいえんど(大瀧詠一、鈴木茂、細野晴臣、松本隆)、池田光夫、石田順二、中川イサト、木田高介、岩井宏、加川良、遠藤賢司

◆再生はこちら
https://king-records.lnk.to/goaisatsu

〇ベルウッド盤:OFL-18(1973年リリース)

<参加ミュージシャン>
高田渡
はっぴいえんど(大瀧詠一、鈴木茂、細野晴臣、松本隆)、池田光夫、石田順二、中川イサト、木田高介、岩井宏、加川良、遠藤賢司

[ボーナストラック]キャラメルママ(中川イサト、鈴木茂、細野晴臣、林立夫、矢野顕子)

▶高田渡「系図」

「ごあいさつ」から1年後に発売されたメジャー第2弾作品。

高田の洗練された歌声、その歌声が紡ぐ詩、多様な奏法で奏でるギター、脇を固めるサポートメンバーといったシンプルな要素で構成されていながら、彼の唯一無二の世界観を堪能できるアルバムとなっている。

本作には、吉祥寺で活動していた武蔵野タンポポ団のメンバーを始め高田と親しいメンバーが多く参加していたこともあり、「長屋の路地に」では各メンバーのソロ演奏を堪能できると同時にバンドの空気感も垣間見ることができる。

詩に対して強いこだわりを持つ高田は、本作でも国内外の詩人を取り上げて歌っているが、その中で唯一2つの詩が歌われている人物がいる。それは、死刑囚であった永山則夫だ。
永山が獄中で書いた『無知の涙』の中から「手紙を書こう」と「ミミズのうた」をどちらも弾き語りで歌い上げている。
「手紙を書こう」は不規則に強弱を付けて爪弾くギターと、呟くような歌唱によって紡がれた言葉に魂が宿ったかのように生々しさがあり、「ミミズのうた」は明るいギターの音色に少年の様に真っすぐな歌声が乗っている楽曲だ。この2曲の弾き語りスタイルの違いから高田の感受性や表現力の高さを存分に感じることができる。

本作の最後には、いとうたかおが作詞作曲とリード・ヴォーカルで参加した「あしたはきっと」が収録されている。この経緯としては、1971年中津川フォークジャンボリーにて、いとうが歌った「あしたはきっと」を気に入った加川良が高田に紹介したことで実現したという。
いとうは、これがきっかけとなり1972年にベルウッド・レコードから1stシングル「あしたはきっと/かたつむり」を発売することとなる。

〇オリジナルリリース:OFL-2(1972年リリース)

<参加ミュージシャン>
高田渡
中川イサト、村上律、細野晴臣、武川雅寛、浜田光夫、いとうたかお、駒沢裕城、
武蔵野タンポポ団マイナス山本コウタロー(シバ、若林純夫、村瀬雅美)

◆再生はこちらhttps://king-records.lnk.to/keizu

▶高田渡「石」

「ごあいさつ」「系図」「石」は”ベルウッド三部作”とも呼ばれ、高田渡の代表作といえる。

アルバム1曲目「ひまわり」は高田の弾き語りに中川イサトのギターと武川雅寛のバイオリンの旋律が美しく交わるフォーク、続く2曲目「夜の灯」は高田の力強い歌唱と柳田ヒロの鍵盤プレイが光るブルース、3曲目「私は私よ」ではフランスの詩人プレベールの詩を日本語訳してディキシーランド・ジャズに乗せて歌うという、冒頭から怒涛の展開を見せる本作。
全く異なるジャンルではあるものの、それぞれの楽曲を聴いてみると日本語詩との相性の良さという点では共通しているように感じる。

日本語の詩で歌うことを大切にしてきた高田であるが、本作にはインスト曲も1曲収録されており、現在でもスタンダードナンバーとして多くのアーティストにカバーされている古賀政男作曲の流行歌「丘を越えて」が、高田と中川のツイン・マンドリンによって演奏されている。
このような試みや多彩なジャンルの収録曲は、その当時の高田が残したい音楽を三部作の最後である本作に詰め込んだという姿勢の現れともいえるかもしれない。

「丘を越えて」に続いて収録されている「当世平和節」は、それまで高田が歌ってきた詩人の一人:添田唖蝉坊の長男である添田知道の「東京節」を基にした歌詞をカントリー調に演奏し、長きに渡って愛されている“高田渡流の演歌”として名高い一曲である。

本作の最後は父:高田豊が20歳前後に書き残したとされる詩「火吹竹」の弾き語りで締めくくられ、この「火吹竹」は後に「当世平和節」とともにシングルカットされている。

〇オリジナルリリース:OFL-11 (1973年リリース)

<参加ミュージシャン>
高田渡
江藤勲、坂庭省吾、ジミー竹内、武川雅寛、中川イサト、中川五郎、松本隆、原田政長、柳田ヒロ、園田憲一とデキシーキングス、ウォッシュボーン・カントリーバンド、岩井宏、加川良、友部正人、田中汪臣

◆再生はこちら
https://king-records.lnk.to/Ishi

▶武蔵野タンポポ団「武蔵野タンポポ団の伝説」

高田渡、シバ、若林純夫、村瀬正美、山本コウタローによるセッションバンド、武蔵野タンポポ団による一作。

そもそも武蔵野タンポポ団は、吉祥寺にあった「ぐゎらん堂」というライブハウスにて「今度のフォークジャンボリーにセッションバンドで出よう」という話で盛り上がり、即席的に作られたバンドである。
村瀬は「ぐゎらん堂」店主の弟で、もともと常連であったシバは当時「ぐゎらん堂」で働いていた。シバと知り合いであった高田はシバが働いているのを知ってからよく足を運ぶようになったのだという。

即席的に作られた上に活動期間も短かったため、武蔵野タンポポ団の音源や資料はほとんど残っておらず、本作のタイトル通り”伝説”的なバンドとして語られている。
そんな経緯で誕生したバンドであったが、1971年に全日本フォークジャンボリーのメイン・ステージでの演奏が実現する。本作はその演奏の模様を収録し、1972年に発売されたものである。

武蔵野タンポポ団としてのオリジナル曲はなく、メンバーそれぞれの持ち歌を演奏していたが、本作の1曲目に収録されている「サンフランシスコ湾ブルース」は若林の持ち歌であるものの、武蔵野タンポポ団を象徴する1曲として認知されている。

本作のジャケットは、ライブの写真がカラー印刷されたものでタイトルやアーティスト名の記載がない。しかし当時のレコードには、モノクロ画像に「武蔵野タンポポ団の伝説」というタイトル表記が入った別ジャケットのスリックが同封されていた。
後々のLPレコードやCDでの再発時には、こちらのジャケットが使用される機会もあり、別ジャケットの方が印象に残っているファンもいるのではないだろうか。

〇オリジナルリリース:OFL-6 (1972年リリース)

 

<参加ミュージシャン>
武蔵野タンポポ団(高田渡、シバ、若林純夫、村瀬雅美、山本コータロー)、友部正人、岩井宏、村上律、中川イサト、福岡風太

◆再生はこちら
https://king-records.lnk.to/MusashinoTanpopo

▶加川良「アウト・オブ・マインド」

高田渡らと共に日本フォーク史に欠かせない人物の一人である加川良がベルウッド・レコードに残した唯一のソロ・アルバム。

1970年に第2回全日本フォークジャンボリーに飛び入りで参加したことで脚光を浴び、URCレコードで3枚のアルバムを発売していた加川にとって4枚目のアルバムにあたる本作。
盟友であった中川イサトや鈴木茂とハックルバックらを起用し、自身の新境地を切り開いた一作でもある。

前半はカントリー・ロックやアコースティックなナンバーが中心で、高田渡もボーカルで参加するロッカバラード「子守唄をうたえない親父達のために」はフォークファン必聴の1曲だ。
「2分間のバラッド」からは趣向が変わり、ファンクやソウルの要素が感じられる加川の新たな一面が堪能できる。
そして最後は、フォーク界のレジェンドとしての貫禄を感じさせるしっとりとした弾き語りで幕を閉じる、リスナーを飽きさせない構成も堪らない名盤だ。

〇オリジナルリリース: OFL-29(1974年リリース)

<参加ミュージシャン>
加川良
中川イサト、佐藤博、田中章弘、林敏明、末永博嗣、長野たかし、金森幸介、本間仁子、松井知子、中川五郎、高田渡、村上律、鈴木茂

◆再生はこちら
https://king-records.lnk.to/Out-of-Mind

 PICK UP LIBRARY 第1回はこちら

関連記事一覧