「KING Jazz RE:Generation」第4期 (ジョージ川口、鈴木 勲、小宅珠実、山本剛など)25作品配信開始
キングレコードが保有する歴史上の重要ジャズカタログを余すところなくサブスク/配信化するシリーズ「KING Jazz RE:Generation」第4期(ジョージ川口、鈴木 勲、小宅珠実、山本剛など)25作品の配信が開始された。
配信に際し監修者尾川雄介氏コメントが寄せられている。
尾川雄介氏コメント
第4期配信化に際して
KING Jazz Re:Generation第4期は、ミュージシャンを絞っての贅沢な固め打ちとなっている。今回取り上げるのは、ジョージ川口、鈴木勲、小宅珠美、山本剛の4人。1959年の『ジ・オリジナル・ビッグ・フォア』以来、実に20年振りのキングレコードへの録音となったジョージ川口。スリー・ブラインド・マイスなどでの活動を経て、新境地へと歩を進めた鈴木勲。その鈴木のプロデュースで1980年にデビューし、以降立て続けに作品をリリースしたフルート奏者、小宅珠美。そして、今も昔も人気の高いピアニスト、山本剛は1990年前後にトリオによる5作品を残した。いずれもが実力派であり、強い個性と存在感でシーンを牽引したミュージシャンである。
今回のラインナップには1980~90年代の作品が多いが、改めて聴くと、この時代ならではのサウンドとミュージシャンの個性が見事に融合した秀作が多いことに気付く。ジョージ川口は、スタンダードからハービー・ハンコック、果てはスティーヴィー・ワンダーやアース・ウィンド・アンド・ファイアーまで幅広く取り上げるが、その圧倒的なドラミングは健在。ジョージ節ともいえるダイナミズムで存分に楽しませてくれる。
鈴木勲の諸作は創意に満ちた名作揃い。ソロ多重録音を究めた『自画像』、菅野邦彦とのデュオで丹念に紡いだ『シンシアリー・ユアーズ』、シャープな音像と独自のグルーヴ感がスリリングな『モンゴリアン・チャント』や『サンバ・クラブ』など、日本のジャズ史においても重要な作品が並ぶ。
1980年以降のフルート・ジャズは小宅珠美抜きには語れない。1980年から1993年にかけて、キングレコードだけでも8枚の作品をリリースした。鈴木勲プロデュースによる『タマミ・ファースト』、俊英、ラリー・コリエルをゲストに迎えた『ウィンドウズ』と『エルサ』、ハンク・ジョーンズやサム・モストらと共演した『ホット・フルート』など、それぞれの作品が個性的で際立っている。
村上龍がホストを務めたテレビ番組『Ryu’s Bar 気ままにいい夜』のオープニングで流れた「クレオパトラの夢」をご記憶の方も多いのではないだろうか。このピアノを弾いていたのが山本剛である。この度は『Ryu’s Bar 気ままにいい夜』の第1集と第2集、さらにはドリーミーな『ジャズ・イン・ワンダーランド』シリーズ2作など、貴重な1990年前後の録音が配信となる。
「KING Jazz RE:Generation」について
日本のジャズが世界的に注目されるようになって久しい。 “和ジャズ”という言葉を頻繁に耳にするようになったのは2000年代初頭だろうか。和ジャズの“和”とは、日本を意味する“和”と昭和の“和”をかけたもの。ちなみに『ジャズ批評』で<和ジャズ特集>が組まれたのは2006年、『和ジャズ・ディスク・ガイド』が出版されたのは2009年のことである。日本人ならではのサムシングを内包したジャズ。日本的な旋律を持った曲や和楽器を起用した曲はもとより、日本の風土や文化をテーマにした作品、また録音された時代背景を色濃く映した作品などが注目を集めるようになったのだ。
この時期からアナログやCDの再発が堰を切ったようにどんどんリリースされ、アーカイヴ化も進む。より体系的で深い理解をもって日本のジャズを(再)評価する気運が高まったのである。この高まりは海外にも飛び火した。クラブ・ミュージックとして日本のジャズに対する素養があったイギリスはもちろん、その他のヨーロッパ各国、アメリカ、中国、韓国、オーストラリアと、波紋は世界中に広がった。そして昨今では、日本のジャズが発展した経緯や土壌にまで興味や考察は及んでいる。日本のジャズ全体が、際立ったいち文化として捉えられるようになっているのだ。満を持して、と言って良いだろう。日本のジャズ・シーンを長きに亘り制作サイドから支えてきたレーベル、キングレコードが、これまでリリースした作品をデジタル化/配信する運びとなった。しかも、いわゆる人気作品に偏った“つまみ食い”ではなく、網羅を目指すというから頼もしい。対象期間は1956年(昭和31年)から1996年(平成8年)、実に40年にも及ぶ(飛び石的に更に古い音源、新しい音源もあり)。基本的には年代を追いながらまとめてゆく形で、数期に分けて実施する大型の企画である。まさに英断だ。キングレコードの膨大かつ多彩なカタログを通して、改めて日本のジャズの発展や変革、そして世界における日本のジャズの特殊性と魅力が浮き彫りになってくるはずである。
日本にジャズが入ってきたのは1910年代後半(大正半ば)と言われている。昭和モダンの頃にかけてダンス・バンドやジャズ・ソング(歌謡曲とジャズの融合)を通して大衆化してゆくが、戦前~戦中~戦後の混乱のなか規制や情報の遮断などもあり、文字通り鳴りを潜める。その間、アメリカにおいてジャズは劇的に進化している。終戦を迎えた1945年といえば、スウィングからビバップへの転換期。戦後、日本のミュージシャンが進駐軍キャンプなどで演奏するようになり、この“新しいジャズ”に触れ大いに刺激を受けた。やがて米軍基地の縮小にともない日本のミュージシャンの演奏の場は基地外へと移り、アメリカからはジャズ・ミュージシャンが日本を訪れるようになる。こうして日本中にジャズが広まり、浸透していった。特に1952 年のジーン・クルーパの来日は、聴衆にもミュージシャンにも、とてつもなく大きなインパクトを与えた という。スウィングとビバップをミックスしたような親しみやすくノリの良いサウンドが大いに受け、日本でも後を追うようなスタイルが隆盛、人気を博した。最大のジャズ・ブームの到来であり、この時期が日本におけるモダン・ジャズの始まりと言っていいだろう。そして、この熱狂と重なるように、キングレコードは本格的にジャズのレコードを制作し始めるのだ。
自主制作やインディペンデント・レーベルの発展が遅い日本では、多くのジャズ作品がメジャー・レーベルに残されている。なかでも1931年創業のキングレコードは、いち早く日本のジャズ・ミュージシャンに着目した。特に戦後のジャズ・ブーム以降の、モダン・ジャズの萌芽と隆盛を捉えた<キング・ジャズ・シリーズ>は特筆すべきものである。リリースのスタートは1956年7月。そのラインナップには、ジャム・セッション集『ミッドナイト・イン・トウキョウ』シリーズ(1956~57年)、ビッグ・フォア『ジャズ・アット・ザ・トリス』(1957年)、三宅光子/丸山清子『トウキョウ・キャナリース』(1958年)、渡辺晋とシックス・ジョーズ『同』(1958年)、白木秀雄『同』(1958年)、八木正生『セロニアス・モンクを弾く』(1960年)、秋吉敏子『トシコ旧友に会う』(1961年)、渡辺貞夫『同』(1961年)、宮沢昭『同』(1962年)など、人選も内容もまさに当時のトップと言える名作が目白押しである。
1960年代前半で一度本格的なジャズ作品の制作からは離れるが、1970年に<ニュー・エモーショナル・ワーク・シリーズ>で再び日本のジャズ・ミュージシャンにスポットを当てる。このシリーズの面白味は、ジャズに限らず、ジャズ・ロックやニュー・ロックまでを同じ視点でまとめたところ。短期間(~1971年)に終わったが、そのラインナップが凄まじい。ジャズ~ジャズ・ロックに限ってみても、村岡実『バンブー』、タイム5『ディス・イズ・タイム5』、横田年昭とビート・ジェネレーション『フルート・アドヴェンチュアー』、笠井紀美子『ジャスト・フレンズ』、リチャード・パイン&カンパニー『コスモス』、ラヴ・リヴ・ライフ+1『ラヴ・ウィル・メイク・ア・ベター・ユー』、シンガーズ・スリー『フォリオール #2』、猪俣猛とサウンド・リミテッド『イノセント・カノン』など、超重量級の作品がずらりと並ぶ。日本のジャズの先鋭さと独自性を体現したシリーズだった。
1974~75年には傍系のベルウッド(設立は1972年。ロックを主眼にリリースしていた)でジャズ作品を固め打ちする。中村誠一『ファースト・コンタクト』、安田南『サウス』、山下洋輔『ヨースケ・アローン』、今田勝『アセント』、日野元彦『トコ』、ジョージ大塚『ラビング・ユー・ジョージ』など、よくぞ残してくれたと言いたくなる、端境期の面白味を捉えた燻し銀の作品群である。1977年に<ニュー・エモーショナル・ジャズ・シリーズ>として1950~60年代の旧作の再発と、八木正生『インガ』やマーサ三宅『ディス・イズ・マーサ』など数枚の新録を送り出した。1978年には傍系のセブン・シーズ・レコードに<ニュー・ストリーム>なるシリーズを立ち上げ1980年にかけて、甲斐恵美子『エミリー』、池田芳夫『スケッチ・オブ・マイ・ライフ』、大友義雄『アズ・ア・チャイルド』、今田勝『オール・オブ・ア・グロウ』、村岡建『ソフト・ランディング』、高瀬アキ『あき』、宮の上貴昭『ソング・フォー・ウェス』などをリリース。キングレコードらしい、時代の機微を映した好作が並ぶ。
その一方で、同年の1978年にはフュージョンを主眼としたレーベル、エレクトリック・バードを設立。1980年代にかけて本多俊之、増尾好秋、益田幹夫らの作品を量産した。また、傍系で忘れてならないのは、こちらも1978年に立ち上げられたパドル・ホイールだろう。インディア・ナヴィゲーションといった海外レーベルの国内盤制作と並行して、ジョージ川口、宮沢昭、小宅珠美、板橋文夫といったミュージシャンの作品も録音/制作した。なかでも、1980年前後に富樫雅彦と鈴木勲の作品を数多く残した功績はとても大きい。1990年代には小宅珠美や山本剛らの秀作をリリース。貴重な記録となっている。と、駆け足でキングレコードにおける日本のジャズ史を追ったが、これだけでもいかにそのカタログが豊かなものであるかがわかる。当時、ジャズ評論家の藤井肇が<キング・ジャズ・シリーズ>を「日本のジャズを日本のLPで聴けるという喜び。そして広く世界にも紹介するという素晴らしく雄大な企画」と評したが(『ジューク・ボックス』1959年5月号)、この度の企画<KING Jazz Re:Generation>も日本のそして世界のジャズ・リスナーに、再び喜びと刺激を提供してくれるものになるだろう。百読は一聴に如かず。これからどんどん進むデジタル化/配信にぜひ耳を傾けたい。
尾川雄介 (UNIVERSOUNDS)
配信作品詳細:https://soundfuji.kingrecords.co.jp/column/5590/
KING Jazz RE:Generation PLAYLIST Vol.4
■音楽配信はこちら:https://playlist.kingrecords.co.jp/?post_type=playlist&p=2054