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やなせたかしの歌を聴く、歌う~サブスクで魅力を再発見Vol.2~

2月6日は、漫画家・絵本作家などとして知られる やなせたかしの誕生日である。
キングレコードが90周年を迎えた一昨年、『やなせたかし作品集~「やさしいライオン」/「0歳から99歳までの童謡」』というCDが発売され、各音楽配信サイトでも配信開始となった。

本作は、1トラック目に1973年に発売された「子供のためのミュージカル・ファンタジー やさしいライオン」を収録し、2トラック目からは1976年に発売された「0歳から99歳までの童謡」の20曲が収録されている。今回のコラムでは、ここに収録された2つの作品について触れていきたい。

「やさしいライオン」は、日本屈指のロングセラーを記録する絵本としても有名な作品であり、アニメ映画化やボニージャックスによる全国公演なども行われたため、幼少期にこの作品に触れた記憶のある方も多いかもしれない。
そんな不朽の名作「やさしいライオン」、もともとは文化放送のラジオ・ドラマのためにやなせたかしが執筆したものであった。姉(演:増山江威子)が弟(演:久里千春)に、孤児のライオン”ブルブル”と育ての親である犬”ムクムク”の物語を聞かせるというドラマで、物語部分を男性コーラス・グループのボニージャックスが歌った童話ミュージカルとして放送された。これを基に、新日本フィルハーモニー交響楽団によるオーケストラの演奏などを施して新たにレコーディングし、1973年にレコードで発売された。この音源は、発売以降レコードでしか聴けなかったが、一昨年に初めてCD化されると同時に配信も開始となり、各音楽配信サイトにて自宅や外出先、移動中でも手軽に聴くことが可能になった。
インターネットやアプリを通じて膨大な情報や娯楽に触れられる今、音声のみの情報からドラマを楽しむというのは新鮮な体験とも言えるだろう。試しに冒頭だけ聴いてみても、本作の上質なサウンドは、日常で使っている音楽配信サービスで聴いても、”鑑賞”と呼べる贅沢な体験のように感じられる。男性コーラス、オーケストラによる描写や心情の表現は、聴き手自身の想像力(イマジネーション)を掻き立て、物語の光景が脳内に広がると同時に、生々しい感情がダイレクトに胸に届く。収録時間23分とアニメ1話分ほどの時間でありながら、童話の域を超えた心揺さぶられる物語・演奏を聴き終えると、劇場で1~2時間の演劇を見終えたような感覚に陥るのではないだろうか。今から50年前に録音された音の世界を通じて、やなせたかしの作品や想いを是非とも体感していただきたい。

続く、「0歳から99歳までの童謡」は、やなせたかしが編集を務めた月刊誌「詩とメルヘン」(サンリオ)にて、やなせたかしの詩に作曲家のいずみたくが曲を付け、誌上で毎月発表していたものから抜粋した作品を音源化したアルバムである。
まず、やなせたかしといずみたくの関係について簡単に触れておきたい。二人は、1960年に上演された永六輔 作・演出のミュージカル「見上げてごらん夜の星を」にて、音楽をいずみたく、舞台装置をやなせたかしが担当したことで出会う。その翌年、女優の宮城まり子の為に「手のひらを太陽に」をやなせたかし作詩、いずみたく作曲で制作。「みんなのうた」でも取り上げられ、ボニージャックスをはじめ児童合唱団や童謡歌手などが録音し、ヒット曲となった。鉛筆が握れなくなるほどに衰弱したいずみたくの晩年、口で言ったメロディーを歌手であった妻が楽譜に書いたことで生まれたのが「すすめ!アンパンマン号」であり、これがいずみたくの絶筆となった。ここに出した曲名はほんの一部に過ぎないが、両氏によるタッグで生まれた楽曲は、現在も多くの人々に歌い継がれている。

「手のひらを太陽に」が作られてから、約15年の時を経て制作された本作だが、やなせたかしといずみたくの共通意識として、「歌に年齢による制限や区別を付けたくない」という思いがあった。つまり、「子供の歌」「大人の歌」という区別を持たずに、子供から大人まで歌える歌を作りたいという思いの下に制作され、タイトルの「0歳から99歳」というのもお母さんのお腹にいる時からお母さんの声帯を伝って聞くことができ、生まれてからいつまでも聞いて、歌うことのできる音楽という意味が込められている。
ここに収録されている童謡は、わかりやすいメロディーで歌いやすく、基本的には難しい単語は出てこない。子供たちは、一つ一つの単語の意味もなんとなく理解し、声に出して歌うことだってできるだろう。そんな子供たちが歌うことを視野に入れた音楽だが、大人がその言葉と言葉を繋いで見ていくと、歌に隠されたメッセージや自分なりの解釈が見えてくるのではないだろうか。
これらを吹き込む歌手も、「黒猫のタンゴ」などで知られる皆川おさむ、「みんなのうた」やCMソングの数々でも知られる楠トシエ、芹洋子、ボニージャックスら、幅広い世代に聴き馴染みのある歌手が起用されている。
童謡は「子供も歌える歌」であるが、決して「子供だけが歌う歌」ではないということを、本作を聴くと強く感じる。大人が子供たちに伝えたいメッセージも含まれていれば、大人になってから救いとなる言葉だって隠されている様に思える。今回のコラムに目を通していただいた方々には、子供たちが童謡を歌う環境と、大人が童謡にも向き合う姿勢を大切にし、本作に収録された楽曲を子供も大人も一緒になって歌えるスタンダード・ナンバーとして楽しんで欲しい。
「生きているから 歌うんだ」


▼やなせたかし作品集~「やさしいライオン」/「0歳から9歳までの童謡」
配信はこちら
https://lnk.to/T_Yanase
CDはこちら
https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICG-721/
※CDには「やさしいライオン」のイラスト・台本、「0歳から99歳までの童謡」の挿絵・歌詞なども掲載。


▼やなせたかし記念館
https://anpanman-museum.net/

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