松本千夏 × LITTLEが語る“時代が変わっても変わらないもの”「Smile in your face」カバーで得た発見
シンガーソングライターの松本千夏が、KICK THE CAN CREWのLITTLEをフィーチャリングし、キャリア初のカバー曲をリリースした。その楽曲は、2002年にリリースされたBOO feat. MUROの「Smile in your face」。1982年にリリースされた山下達郎の「SPARKLE」をサンプリングした瑞々しいトラックと、歌詞のメッセージをクリアに届ける伸びやかなメロディが、時代を超えて愛され続けている。
今回のカバーではリアレンジに加え、LITTLEもMUROのリリックを引用しながらラップを書き下ろし、原曲のテイストを継承しながら現代の感覚でコンパイル。原曲へのリスペクトに溢れた、時代をつなぐ1曲に仕上がった。松本とLITTLEは今回のカバーとどう向き合い、どんな発見をしたのだろうか。カバー完成までの道のりをじっくりと聞いた。(沖さやこ)
――松本さんがカバー曲をリリースするのは初めてですよね。
松本千夏(以下、松本):はい。チームのチーフディレクターから提案してもらいました。すごくまっすぐで気持ちのいい曲なので、自分が歌うとどんな感じになるのか想像できなくて気になったし、それをリリースしたらどんなリアクションが来るんだろうとワクワクしましたね。これまでは自分の作った曲を歌うことが多かったんですけど、ぜひやりたいですと返事をしました。
――「Smile in your face」はBOOさんがMUROさんをフィーチャリングした2002年の楽曲で、BOOさんの歌声とMUROさんのラップのコントラストが心地よさや歌詞の説得力を生んでいます。今回のカバーでラップを担当しているのはLITTLEさんですが、音源が完成するまではどのような手順で進んでいったのでしょう?
松本:チーフが“LITTLEさんと千夏の声が合うと思う”と言って面識がないながらにオファーをしたら、LITTLEさんが受けてくださったんです。編曲家のREOさんが原曲をアレンジしてくださって、LITTLEさんにはわたしが仮で歌入れをしたデモをお送りして。その後レコーディング本番を迎えました。だからレコーディング直前までLITTLEさんがどんな歌詞を書いているのかは知らない状態で、LITTLEさんとも歌録りで初めてお会いしたんです。
LITTLE:僕が先にスタジオに入って、ラップを録ったんですよね。……千夏ちゃんは“この人こんなにラップ入れてくるんだ”とか思った(笑)?
松本:あははは! 全然思ってないです(笑)。
LITTLE:原曲の倍の小節数を使ったんですよね。原曲の間奏部分やブレイクは必要だと思うし、俺個人としても好きなんだけだけど、今の時代に声の入らない時間がこれだけあるのはどう伝わるんだろう……とも思ったんです。今リリースするなら埋めておいたほうがいい気がした。あとMUROさんのラップを引用しながら自分っぽさも出すとなると、8小節より16小節あったほうが出しやすいなとも思って。それで事前に“ここもラップしていいですか?”みたいなやり取りはさせてもらいましたね。
――LITTLEさんが書き下ろしたリリックは、MUROさんのラップとリンクしながらも、LITTLEさんのカラーが出ていると思います。
LITTLE:MUROさんのラップのオマージュを多用してほしいというオーダーもいただいていたので、特徴的なワードを残しながら、変な言葉遣いをせずに丁寧な言葉でリスペクトを込めて書いていきました。ラップは先人のリリックを引用したり、言葉遊びをする文化があるけど、今回はカバーだからいつものそれとはやっぱり感覚が違いましたね。楽しみすぎちゃいけないというか、ふざけすぎちゃいけない。自分史上最も真面目に書きました(笑)。
松本:後半のLITTLEさんの畳みかけ、めっちゃ好きです。レコーディングする時にLITTLEさんのラップを初めて聴いて、きたきたきた~!! って一気にめちゃくちゃアガりました! ラッパーの方と歌ったのが初めてだったんですけど、ラップの後に〈I’m in dream〉と歌い出す瞬間、さあどうぞと迎え入れられたような感覚があって、自分が最強になれた気がしたんです。超気持ちよかった!
LITTLE:それはラッパーをフィーチャリングするシンガーならではの気持ちだよね。俺には一生わからない(笑)。すごくいいと思う。
松本:LITTLEさんのラップがカッコよすぎて、録るたびにLITTLEさんのテイクを聴いて歌入れしたら、自分までラッパーみたいな気分になっちゃいました(笑)。スタッフさんたちも“千夏ちゃんの声がいつもと全然違うね”と言っていて、録った音源を聴いて自分でも自分っぽくないなと思ったりするんです。完全にLITTLEさんのラップに引き出してもらった歌ですね。化学反応ってこういうことを言うんだなと思いました。
LITTLE:カバーだから千夏ちゃんも原曲のイメージありきで歌っているところもあると思うけど、ただ“やってみたら?”と言われて歌わされてる、歌ってるだけじゃないのは伝わってきましたね。千夏ちゃんは原曲のことを“まっすぐ”と言ったけど、あれはBOOさんとMUROさんなりのまっすぐさだと思う。千夏ちゃんの歌からはそのニュアンスも感じるし、20代前半という等身大の世代感もある。“世代”というのは、ラップで意識したテーマでもありましたね。
――今回のカバーは楽曲面においても、松本さんとLITTLEさんの関係性においても、様々な時代や世代がクロスオーバーしたものではありますよね。
LITTLE:千夏ちゃんと俺は年齢も離れてるし、性別も違うから、まず冒頭の自分のバースで世代や枠組みを超えて尊敬し合える関係性であることを説明しましたね。サビの〈10年でも100年でも〉という歌詞のとおり、原曲も“時代が変わっても変わらないもの”を歌っていると思うんです。
――確かに。だからこそ原曲の「Smile in your face」も、当時20年前の楽曲にあたる「SPARKLE」をサンプリングなさったのだろうなと。
LITTLE:だからラップでも〈1日〉や〈1週間〉みたいな短いタームの言葉や〈永遠〉という言葉を入れて時間の流れを書いたり、性別とかも関係なく時代や世代が違っても、共鳴すれば音楽を作っていくでしょ、みたいな普遍的なことをイメージして書いていきましたね。
――松本さんがLITTLEさんのラップにかぶせて歌うところもアクセントになっています。
松本:LITTLEさんが“ラップの好きなところで上から歌ってほしい”と言ってくださったので、自分なりに挑戦してみました。
LITTLE:後から千夏ちゃんのボーカルが重なったテイクを聴いて“おお~!”と思いましたね。でもその場で初めて聴いたラップに被せていくのなかなか大変だよね……って俺が頼んだんだけど(笑)。
松本:大変でした(笑)。でもラップのかぶせも初体験だったので、めっちゃ楽しかったです。“結構入れちゃっていい”と言ってくださったので、最後のLITTLEさんのラップの部分はわたしも全部一緒に歌ってみました。自分が書いた曲ではないのに、LITTLEさんの作ったものに乗るだけでこんな楽しいんだ!と感動して……ラップに目覚めそうです(笑)。
――このカバーを聴いて、松本さんがラップ経験者だと思う人も多いかも。
松本:そうなんですよ。この取材の前にLITTLEさんと一緒にラジオ収録に行ったんですけど、“即興でラップしてほしい”と言われて(笑)。
LITTLE:俺じゃなくて千夏ちゃんがね(笑)。
松本:なんでわたし!? しかも、それをLITTLEさんの前でやらなきゃいけないなんて! と思ったけど、そんなふうに言ってもらえるなんて思わなかったので最近でいちばんうれしかった出来事です(笑)。なんとか韻を踏めるように頑張って、ラップって難しいなと思う反面、考えるのがすごく楽しくて。全然LITTLEさんの足元にも及ばないんですけど……。
LITTLE:いやいや。すごかったですよ。千夏ちゃんは地元の友達からヒップホップを教えてもらったらしいけど、どんな子たちかわからないけど多分その子たちより千夏ちゃんのほうがラップうまいと思う(笑)。
松本:それはわたしのほうがうまいかも(笑)。
――松本さんにとっては、新しい扉が開いた充実のカバーになったのではないでしょうか。
松本:本当にそうですね。カバー曲を配信リリースする経験が初めてだったので、レコーディングまでにしっかり自分の曲のように歌えるようにめちゃめちゃ歌い込んだんです。でもレコーディング現場でLITTLEさんのラップを聴いて、それまでとはガラッと違うマインドで歌録りができて、本当に良かったと思っています。でもわたしがLITTLEさんにもらってばかりで、返せなかったな、わたしもびっくりさせたかったなという気持ちがあるんです。だからいつかは自分の曲でもご一緒できたらうれしいなって……。
LITTLE:ぜひぜひ。いつでも声掛けてください。
松本:もうちょっとラップ頑張ります(笑)。
LITTLE:千夏ちゃん、この感じだと本当にラップの曲作りそうだなあ(笑)。
松本:歌詞を全部ラップにするくらい上達しないと(笑)。
LITTLE:その時はサビにスクラッチ入れて、渋いやつをやろう(笑)。
■リリース情報
Digital Single 「Smile in your face」
松本千夏 feat.LITTLE
配信URL
https://chinatsu-matsumoto.
松本千夏 オフィシャルサイト
https://matsumotochinatsu.com/
LITTLE オフィシャルサイト
https://little.vc/