• HOME
  • HOME
  • COLUMN
  • 25周年イヤーに突入した水樹奈々 “今”の時代を表現した挑戦的なアルバム『CONTEMPORARY EMOTION』を紐解く

25周年イヤーに突入した水樹奈々 “今”の時代を表現した挑戦的なアルバム『CONTEMPORARY EMOTION』を紐解く

CONTEMPORARY EMOTION

声優アーティストのパイオニアとして数々の偉業を成し遂げ、現在も第一線を走り続ける声優界の歌姫・水樹奈々。12月にアーティストデビュー25周年の節目を迎える今年は、25周年イヤーとしてこれまで以上に精力的な活動が期待される。メモリアルイヤーに放つニューアルバム「CONTEMPORARY EMOTION」が3月19日に発売された。

新曲11曲を含む全14曲が収録された大ボリュームの1枚となった今作の初回限定盤には、スペシャルフォトブック、そして2022年に茨城県・池の川さくらアリーナで開催され、単独ライブ47都道府県制覇を果たした記念ライブ「NANA MIZUKI LIVE HOME」の映像が全編収録されているほか、2024年になんばパークスシネマで公開収録したオーディオコメンタリーも同時収録される。様々な視点でライブ映像を繰り返し楽しめること間違いなしだ。

ここからはアルバムに収録される全14曲のレビューをお届け。25周年イヤーのメモリアルな1枚にどのような思いが込められているのか、じっくり見ていくことにしよう。

M1「拍動」

アニメ『#コンパス2.0』のOP主題歌にもなっている、水樹奈々の新境地を切り拓くアルバムリード曲。ボカロっぽさも感じさせる濃密でハイテンポなメロディ構成、攻めに攻めたGiga(作曲・編曲)のバキバキなサウンド、本格的なラップパートなど、たった3分の曲にもかかわらず、彼女の新たな魅力がギュッと詰まった1曲に仕上がっている。一方で、聴いている人の背中を押してくれるようなメッセージ性のある歌詞や、歌い上げるようなサビなど水樹らしさもしっかりと内包。アルバムの幕開けに相応しい、彼女の新たな挑戦を感じられる1曲と言えるだろう。また、Gigaと堀江晶太(Kemu)はこれが初めてのタッグ曲となる。ボカロファンの視点で見てもワクワクするような組み合わせであるに違いない。

M2「Electric Trick」


好きな相手のことばかり考えてしまう恋する少女のピュアな気持ちを、“スパイウェア”“バグ”“声の波形”といった電子の世界をイメージさせるような歌詞でオシャレに表現したデジタルアッパーチューン。息継ぎする箇所が存在しないのではと思うくらい早口な歌い回しや、矢継ぎ早に紡がれる主メロとコーラスのテンポの良い掛け合いなど、最初から最後まで歌唱難度の高い展開が続くが、それを感じさせない水樹の歌唱力の高さに改めて驚いてしまう。カッコよさと可愛さを同居させたボーカル表現も圧巻だ。

M3「Virtual Cruiser」


英詞で紡がれるAメロでリスナーにインパクトを与え、変拍子に突如変わるBメロを経て、サビでクールに歌い上げる。一聴しただけでは全容を把握できない複雑なデジタルロックナンバーは、これまでの水樹の曲にはないエキゾチックさも感じられる無二の楽曲と言っていいだろう。“マジョリティとかマイノリティ 属するなら「僕」がいい”という歌詞が象徴するように、この曲は周りに流されずに自分を持ってほしいという強いメッセージが込められている。フェイクニュースにあふれた現代社会を生きる我々全員に刺さることだろう。

M4「ADRENALIZED」


カーレースをテーマにしたアニメ『HIGHSPEED Étoile』のOPテーマでもあったこの曲は、“さあ、奮い立て” “最高の明日をこの手に…!”といった力強い言葉で主人公たちを鼓舞する、水樹らしさ全開のパワフルな1曲だ。痺れるくらい印象的なヘヴィなギターや、細かいフィルを休みなく叩き続けるドラムなど、歌声や言葉だけでなく、出てくるすべての音が骨太でダイナミズム。この曲が、新たな世界へ飛び込む後押しとなってくれるはずだ。

M5「Moment of Truth」


水樹の楽曲に欠かせない、音楽制作チーム・Elements Gardenが制作した最新曲は、サビの中盤で突然高音キーが出現する展開など、今回も彼女の歌唱力を信頼していないと書けないようなメロディが満載である。幻想的なエレガサウンド、水樹の持ち味であるダブルミーニングも込めた難解な言葉の数々など、“これぞ水樹奈々”と呼べるような楽曲に仕上がっているが、歌詞の内容を深く読み込んで見ると、今回は日常の普遍的な事柄をテーマに据えているようにも感じられる。

M6「Turn the World」


水樹お得意のマイナー調のロックサウンドを下地に、パワフルな歌声と、他人と比較し壁にぶつかって諦めてしまっている人たちを熱く焚き付けるような強い言葉たちが合わさった、疾走感あふれるアッパーなロックナンバー。アニメ『SHAMAN KING FLOWERS』のOPテーマとして書き下ろされた楽曲なだけあって、少年漫画らしい熱さとメッセージ性がこの曲には強く宿っている。言葉の頭を強めに叩くAメロの独特なアクセントや、Bメロのしゃくり、楽曲全体の緩急など、所々フックを効かせながら展開させる水樹のボーカル表現も巧みだ。

M7「シャレード」


不毛な恋とわかっていても愛さずにはいられない、愛に溺れる女性の一幕を描いた、80年代歌謡曲を彷彿とさせるジャジーな雰囲気が印象的な1曲。歌謡曲で育った水樹にとって、女性の情念の表現は最も得意とするところだろう。作中で描写される女性の切なさや逼迫感も相まって、彼女の歌声には一段と力が籠もる。タイトルの「シャレード」とはジェスチャーゲームの意味だが、それとは別に“滑稽な茶番”という意味も存在する。愛に盲目な主人公自らそのように感じているのか、それとも第三者視点では滑稽と映るのか、様々な受け取り方ができることだろう。

M8「Sugar Doughnuts」


ドタバタコメディアニメ『でこぼこ魔女の親子事情』のOPテーマにもなった、サビやラストの合いの手、そして水樹の躍動感のあるキラキラした歌声が癖になる、ファンキーでアップテンポなパーティーチューン。“世界は愛で回って行くの”というフレーズから始まる愛こそすべてな楽曲は、不毛な愛を歌った「シャレード」からの流れで聴くと、また違った味わいを感じられることだろう。多様性をテーマにした歌詞は、1年半前のリリース時よりも現在の方がより世相を反映しているかもしれない。

M9「Nightfall」


お互い惹かれ合っているのに好きだと言い出せない、焦れったい両片思いな関係を表現した華やかなサマーソング。“キスの予感” “ひとつに融けあいたい”といったワードや、ジャジーに奏でられるサウンドの雰囲気から、この曲の主人公はある程度恋愛を経験した成人であると推察されるが、そんな彼女がまるで初恋のようなピュアな恋愛を繰り広げているのがとても愛おしく感じられる。そんな無垢さと大人っぽさが両立した世界観を、水樹の艶のある歌声がさらに魅力的にさせる。いつまでも聴いていたくなる心地良さがたまらない。

M10「Blueprint」


冬の澄んだ星空の下で紡がれた2人だけのかけがえのない思い出。そんな情景がありありと浮かぶような一片の恋物語は、ほっこりとした気持ちを運んでくれるドラマチックなミディアムバラードだ。様々な恋愛ソングが収録されている今回のアルバムの中でも、この曲ほど聴く人自身の恋の記憶を呼び起こす楽曲もないだろう。眩しいくらいの青春の1ページを表現する柔らかな水樹の歌声を聴き終えた後には、愛しさ・切なさ・温かさなど、様々な感情が去来するはずだ。

M11「フロンティアジャッジメント」


“絶体絶命だって切り開くのよ” “常識なんて蹴っ飛ばしてGO!”といったフロンティアスピリットにあふれた水樹らしさ全開な歌詞が印象的な、聴く人の心をぶち上げるアッパーチューン。盛り上がれるクラップやコール箇所あり、グルーヴィーなギターフレーズありと、この曲はとにかくライブ向きである。彼女の代名詞である激しいライブでこの曲がどのように育っていくのか、今から期待が高まって仕方がない。

M12「Trailblazer」


水樹奈々×エレガサウンドのもう1曲は、Bメロとサビの間にブリッジパートが挿入された少々変則的な構成で展開されるスタイリッシュでクールな1曲。「Trailblazer」=“先駆者”というタイトルは、彼女の代表曲である「ETERNAL BLAZE」に掛けていることも含め、声優アーティストとして様々な道を切り拓いてきた水樹にこれほどぴったりなワードもないだろう。アーティストとしての矜持と信条がふんだんに盛り込まれている歌詞は、25年を走り続けてきた彼女だからこそ歌えるワードの数々にあふれている。

M13「Awesome!」


アルバムに必ず1曲は収録されている本人作曲楽曲。今回の曲は楽しさに満ちたスウィング調のライブチューンであり、25周年イヤーを迎え、ここまで支えてくれたファン、そしてすべての人への感謝の気持ちを綴ったある種のラブソングでもある。何事にも全力な水樹の本心が表れた赤裸々な歌詞を読めば、「Awesome!」=“最高!”という直球なタイトルになるのも頷けるだろう。“かかっておいでよ”という、彼女のラジオでお馴染みのフレーズが想起される言葉選びなど小ネタも十分。これからも全力で走り続ける彼女を応援したくなる1曲だ。

M14「ツバサ」


別れの季節である3月のリリースにぴったりな、新たな旅立ちを歌った晴れやかなバラードナンバー。シンプルでありながら気持ちを盛り上げてくれる美麗なメロディに、悲しみを受け入れながらも前を向く主人公の心の成長が表れたグッとくる歌詞、琴線に触れるようなピアノとストリングスの澄んだ音色、そしてサビで一気に盛り上がる感動的な水樹の歌声。アルバムのラストを飾るに相応しい名バラードがまた一つ誕生した。

『CONTEMPORARY EMOTION』=“現代的な感情”というアルバムタイトルどおり、多様性やボーダーレスなど、今の時代を象徴するような要素が散りばめられた挑戦的な1枚であることが、アルバムを通じて伝わってくる。またそれと同時に、「Virtual Cruiser」「Moment of Truth」、既発曲の「Turn the World」などが顕著だが、情報にあふれた現代社会を生きる我々へと向けた“周りに流されず自分らしくあってほしい”という水樹の一貫した願いも多くの曲に表れている。今の時代に彼女がどのような想いを抱いているのか、このアルバムから見えてくるはずだ。

今年の12月から来年1月にかけて、全国7か所14公演でのライブツアーの開催がすでに発表されている。水樹にとってライブの存在は欠かすことができない重要要素。今回のアルバム新曲にどのようなアレンジや演出が加えられ、どのようなパフォーマンスで魅せてくれるのか。その完成形を見られるまで少々時間が空くことになるが、アルバムを聴きこみながら楽しみに待ちたいと思う。

Information

水樹奈々『CONTEMPORARY EMOTION』
発売日:2025年3月19日(水)

『CONTEMPORARY EMOTION』初回限定盤
<初回限定盤 CD+Blu-ray>
品番:KICS-94190
価格:¥6,600 (税込)
初回限定盤特典:Blu-ray+スペシャルフォトブック+特製BOX仕様

『CONTEMPORARY EMOTION』通常盤
<通常盤 CD>
品番:KICS-4190
価格:¥3,300(税込)

buy:
https://mizukinana.lnk.to/CONTEMPORARYEMOTION

listen:
https://mizukinana.lnk.to/CONTEMPORARY_EMOTION

 

関連記事一覧