時代を駆け抜けた盟友たちとの豪華コラボ 中西保志「BONUS TRACKs ~最後の雨2025」レビュー

1992年のデビュー当時から変わらないハイトーンボイスと、パワフルな歌声が魅力的なシンガー・中西保志。15年ぶりとなる新作オリジナルアルバム「BONUS TRACKs ~最後の雨2025」が7月23日にリリースされた。
「BONUS TRACKs」というタイトルは、その名のとおり、CDの最後に追加される“ボーナストラック”に由来しており、どの曲もボーナスとして楽しめるような、ファンやリスナーに向けた感謝が表されている。そんな特別な1枚を彩るのは、様々なアーティストたちと共に作り上げた数々のコラボレーション楽曲たち。特に佐藤竹善(SING LIKE TALKING)、山根康広、中西圭三、澤田知可子、杉山清貴といった、ともに邦楽の第一線を走り続けた豪華アーティストたちとの共演は、中西自身はもちろん、これまでジョイントコンサートや歌番組などでその共演を目にしてきたファンにとっても待望の音源化となっている。
ここからはアルバムに収録された全11曲の楽曲をレビューしていく。オリジナル新曲から70~90年代のカバー曲まで、新しさと懐かしさが同居する楽曲の数々を紐解いていこう。
M1「最後の雨2025」
90年代を代表する自身最大のヒットナンバーのリアレンジ版。切ない別れを描いたドラマチックなAORの名曲に人気サックスプレイヤーのユッコ・ミラーが奏でるサックスの音色が加わったことで、ムーディでロマンチックな雰囲気が前面に押し出された1曲へと昇華されている。また、今回のアレンジはAメロから始まるオリジナル版とは異なり、中西のアカペラボーカルによる “誰かに盗られるくらいなら 強く抱いて 君を壊したい” というサビの印象的なフレーズが曲の冒頭に追加されている。サブスク全盛の現代では曲のイントロが短くなる傾向があるが、今回の頭サビの追加によってこの名曲の魅力を体験する若いリスナーも多く出てくるに違いない。
M2「ジョニーの子守唄」
SING LIKE TALKINGの佐藤竹善とのデュエットソングは、1978年にリリースされたアリスのフォークソングのカバー。思わず身体が動いてしまいそうなパーカッションのリズムと軽快なアコギの音色に乗せて歌われる中西のナイスガイな歌声は、谷村新司の説得力のある原曲の歌声にも引けを取らない。そしてこの曲はとにかく2人のハモリが心地良い。1+1が3にも4にもなるような重層的なハーモニーは、いつまでも聴いていたくなるほどの良さにあふれている。
「すれ違いの恋人たち」
シンガーソングライター・山根康広がデビュー前に制作した楽曲が、中西の歌声によって新たな化学反応を起こす。胸が痛くなるような男女の恋のすれ違いを、まるで心の叫びかのように力強くエモーショナルに歌い上げる中西の声に、聴いているこちらの心もたちまち揺さぶられてしまうことだろう。耳馴染みの良いメロディと歌詞に込めたストレートなメッセージは、ロックバラードのお手本と言ってもいいくらいだ。
「エンドレス・ラブ」
同名の映画の主題歌としてアカデミー賞主題歌賞にもノミネートされたライオネル・リッチー&ダイアナ・ロスの名曲を、ラブソングの名手である澤田知可子と四半世紀以上ぶりにデュエット。全編英語の歌詞をものともせず、ロマンチックな雰囲気を作り上げる2人の歌声にただただ脱帽してしまう名カバーだ。こそばゆさすら感じさせるラブソングを時に掛け合い、時にユニゾンしながらじっくりと丁寧に紡いでいく2人の姿にずっと浸っていたくなる。
M5「あずさ2号」
パフォーマーとしても名高い中西圭三とのコラボレーションは、言わずと知れた昭和のボーカルデュオの名曲カバー。この曲の真骨頂は、力強く伸びやかな中西保志の歌声と、心に沁みるような中西圭三のボーカルによるサビのハモリ部分で間違いないだろう。パワフルでありながらも叙情的な2人の歌声は、ジョイントライブで幾度と披露していることもあって練度は抜群。信濃路への傷心旅行も、この2人の歌声なら安心して旅立てそうだ。
M6「夏・海・恋・歌 1984 ~Summer side story~」
以前からライブで披露していた中西自作の夏ソングが初音源化。切なさはあれどノスタルジックになりすぎず、良い思い出だったと振り返ることもできる青春の1ページ。そんな眩しいアオハルな思い出を切り取ったミディアムバラードは、60年以上の人生を重ねた中西だからこそ出せる深みにあふれている。様々な感情が織り交ざった繊細な歌声によって、自身の思い出が呼び起こされた人も多いかもしれない。
M7「溶ける愛」
「最後の雨」を手掛けた作曲家・都志見隆とのタッグにより生まれた新曲は、夜の都会の一室で密かに終わった愛を歌うかのような、「最後の雨」とはまた異なるアプローチで綴られた失恋ソングだ。平成の恋愛ドラマを彷彿とさせるキラキラしたサウンドはどこか哀愁と懐かしさを感じさせ、そこに中西の切実な歌声が加わることで、ただでさえ切ない歌詞の内容が何倍にも増幅されたようにも聴こえる。
M8「サイレント・イヴ」
クリスマスの失恋ソングの定番である、辛島美登里の代表曲を今回初めてカバー。序盤は失恋の影響によるどこか心ここにあらずな歌声が、徐々に感情を取り戻し、ラストは少々強がりながらもなんとか前を向こうとする。中西の柔らかく落ち着いた歌声の中に宿る様々な感情の機微が、この曲の情景をさらに鮮明に浮かび上がらせるのだ。淡く切ない女性ボーカルの原曲とはまた違った印象を抱くことだろう。
M9「1/52」
春が来るたびに思い出す、大切な人との数々の記憶——。ピアノとチェロの音色で構成されたミディアムバラードナンバーは、日本人の心の花である桜の季節をテーマにしたノスタルジックな1曲だ。タイトルには1年52週の中で1週間の満開のために、残り51週をじっと静かに立ち尽くす想いが込められている。どこか懐かしむような中西の優しげな歌声は、失恋ソングでありながらも達観したような印象を与えてくれる。そして“高く舞い上がれ”という歌詞と共に一段強くなる中西のハイトーンボイスにも心を打たれる。願いを込めた彼の歌声は天にも届きそうだ。
M10「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」
ソプラノ歌手の真園ありすとのコラボレーション楽曲は、ボレロ風のリズムと荘厳なオーケストレーションで奏でられるオペラティックポップの名曲カバー。この曲の最大の盛り上がりは、中西と真園がイタリア語と少々の英語で構成された歌詞をそれぞれソロで紡いだ末に披露される、ラスト1分間のデュエットパート。中西のハイトーンと力強い高音域、真園の圧倒的なソプラノボイスのハーモニーにただただ圧倒されてしまう。実力者たちにしか歌えない贅沢な1曲だ。
M11「バス・ストップ」
1972年の平浩二のヒット曲を杉山清貴のコーラスとアコースティックギターの演奏で一発録音した、贅沢なセッション。原曲の特徴的な“バスを”のファルセットを、原曲の良さを引き出しながらビブラートを効かせた歌い方へと再構成するなど、「この楽曲を中西保志としてどう歌うか」というアプローチはこの曲が一番わかりやすいかもしれない。一発録りとは思えないほど巧みな歌唱技術が随所で光っており、改めて中西の歌唱力の高さ、そして杉山のコーラスと演奏の妙味が堪能できるトラックと言えるだろう。
日本語のみならず英語やイタリア語のカバー楽曲さえも、中西が歌うことでしっかりと“中西保志の楽曲”へと落とし込まれ表現される。アルバム全体を通して、彼のシンガーとしての実力の高さを改めて見せつけてくれるような1枚であり、そんな中西とコラボレーションした今回のゲストアーティストたちの魅力と素晴らしさもしっかりと感じられる1枚となった。まさに「BONUS TRACKs」というタイトルに違わぬアルバムだ。
アルバムリリース後も中西は精力的にコンサートやライブ、インストアイベントなどを行っていく。今回参加した中西圭三や山根康広、澤田知可子との共演もすでに決まっているため、今回収録されたコラボ曲を生で聴ける日もそう遠くないかもしれない。歌手活動34年目を迎えても、中西保志はまだまだ精力的に活動を続けていく。
Information
BONUS TRACKs ~最後の雨2025
発売日:2025年7月23日(水)
品番:KICS- 4209
価格:¥3,300(税込)
ご購入はこちら:
https://king-records.lnk.to/1wTubL
楽曲配信はこちら:
https://king-records.lnk.to/BONUS_TRACKs
中西保志 × ユッコ・ミラー「最後の雨2025」Music Video:
https://www.youtube.com/watch?v=cBoEUtCbvMc