ENVii GABRIELLA、初東名阪ツアー『〜THE CABARET〜』ファイナル公演レポ「もっとたくさんのGAViiが乗り込める豪華客船にしたい」
昨年デジタルシングル「Moratorium」でメジャーデビューを果たし、今年3月にメジャー初となるミニアルバム『Metaphysica』をリリースしたENVii GABRIELLA(以下、エンガブ)が、3月19日に東京・リキッドルームでワンマンライブを開催した。この日はエンガブ初の東名阪ツアー『ENVii GABRIELLA TOUR 2022〜THE CABARET〜』のファイナルということで、この夜だけの演出も取り入れられた圧巻のステージを披露。全国から駆けつけたGAVii(エンガブファンの呼称)の愛と熱気が渦巻くフロアを、全身全霊のパフォーマンスで魅了した。
暗転した会場に響く「Follow Me Home」の一節。インディーズ最後の作品『ENGABEST』のラストに収められた互いへの感謝と決意が込められたこの楽曲が、アルバム『Metaphysica』の1曲目であり、この夜の幕開けとなる「Finally Found You」へとバトンを繋ぐ。これまでの日々と湧き起こってきた感情の全てを慈しむような表情で歌い出したTakassyの声に、HIDEKiSMの艶やかな高音とKamusのしなやかなパフォーマンスがサビで融合。静かに熱く爆発している3人の感情がダイレクトに伝わってくるオープニングだ。
「いらっしゃいませ 当キャバレーはエレベーターにてお客様のご自由に上層階へ上がることが可能となっております」
クセのあるアナウンスに導かれ、足を踏み入れたこの場所は今夜の舞台である“THE CABARET”。クルエラ? それともリャナンシー!? どこかで聴いたような声の主が高笑いとともに「いらっしゃ〜い」と迎え入れるのだが、この強烈なナレーションに合わせてステージ上でパフォーマンスしているのはダンサーのKamusだ。
「自分をどう説明するの? 男? 女? ネコ? そもそも人間?」
演じるというよりもむしろ憑依と言った方がしっくりくるような怪演でストーリーテラーとなったKamusが、”様々な角度から本質を見つめ追及する”という『Metaphysica』の世界を提示していく。いわく付きの洋館に迷い込んでしまったかのようなムードでアレンジされた「CABARET」のショートバージョンを経て「女優(仮)」へ。椅子を使った3人3様のパフォーマンスは、トレーンを引く衣装の美しさも際立たせていた。そこから一転、ホーンセクションが気高く響く「B&G」のイントロでそのドレッシーなパーツを剥ぎ取り、フラッグのように胸を張って掲げる3人。エンガブが大切にしてきた『CABARET ENGAB』初回公演のオープニングとして書き下ろされたこの曲もまた、このツアー『THE CABARET』のセットリストにおいて重要な意味を持つ1曲と言えるだろう。短い挨拶を挟んで披露された「Sorry Not Sorry」はエンガブの曲タイトルも散りばめられていて、振り付けが連動しているところも楽しい。ヒップの動きを強調したトゥワーク風のダンスも見どころだ。あれだけハードに踊ったにも関わらず、HIDEKiSMが感情を込めて繊細に歌い出す「SLAY」。Takassyのパワフルなボーカル、Kamusのソロ、ランウェイのようなパフォーマンスなど、耳にも目にも情報量の多いライブの人気曲だ。
東京タワー(Takassy)、スカイツリー(HIDEKiSM)、そして常香炉で煙を浴びる仕草で浅草寺(Kamus)という東京ならではの自己紹介などを終え、その後はひとり、ヨガのポーズを教える”カミュササイズ”やソロのトークでMCを担当したKamus。いい感じに盛り上がってきた場のムードを遮るように”あの声”が甲高く響き渡ると、豹変したKamusが挑発的な表情で次の階へと誘う。
「上のフロアは、アツいわよ!!」
ライブ中盤は、おそらく誰もが予想しなかった角度からメジャーの扉を開けたデビュー曲「Moratorium」から。この日はまず前半でHIDEKiSMとTakassy の”デュオ”感を全面に打ち出し、Kamusは中盤から3人のバックダンサーを引き連れて登場。迫力のソロパートから6名でのダンスいう流れになっていて、華やかさや力強さがより強調された世界観を味わうことができた。2人の猶予期間を歌った「Moratorium」が生まれたことで、さらに切なく響く「Lover Boy」。むせかえるような愛の炎を総勢7名で表現した「Meramera」は、初披露となった東京キネマ倶楽部の驚きと衝撃を更新するようなド迫力のパフォーマンスでただただ圧倒されるばかりだった。
本公演のためにTakassyが書き下ろしたオリジナルトラックをバックに繰り広げられたKamusのソロパートは、女性ダンサーとともに。光と闇、鏡の中の自分、理性と本能など、表裏一体の要素が交差するような2人のパフォーマンスは思わず息を飲む美しさだ。全身から言語や感情が溢れているKamusのこの表現力は、唯一無二。その個性と才能を改めて証明するようなダンスで魅了した。
まるで漫才師かのようなテンションで「どうも〜」と登場し、マシンガントークを繰り広げながらフロアを巻き込んでいく2人。着替え終わったKamusも出てきたところで、各地でのキャンペーンの様子やライブ前日に放送された初の音楽番組出演についての爆笑トークを展開していたのだが、”いつもの3人”が顔を出していたのも束の間。エレベーターは次の階へと上昇した。
ライブの人気曲であるにも関わらず未収録だった「Ride」が、「Ride/Reboot」としてようやく音源化。近未来的なニュアンスのアレンジになったことにより、振り付けにはスタイリッシュでクールな要素も取り入れられていた。ハイキックを決めて乗り込むシーンは、ワイルドだけど美しさも全開。”3人”であることを武器に見せ場を作るという意味では、シンクロするサビのキャッチーな振り付けが印象的な「DYSTOPIA」にも通じる部分が。レトロポップな一面を持ったサウンドだが、ギリギリのテンションを保ち続けているようなTakassyとHIDEKiSMのボーカルは凄まじく、エンディングでは飲み込まれてしまいそうな真っ白い熱が会場を包み込んでいた。
「あなたは誰? 答えは出てるみたいね。でも答えなくていいわ。意味がないもの」
他人からどう見られているか、その答えすらひとつではない。だから自分の中にいる自分だけを信じて、守って、救うのーー。『THE CABARET』の主が呟いた台詞とともに向かった最上階ではまず、品格高く、誇り高く、そして自分らしくと歌われる「High Heels」で思い切りタオルを回して盛り上がる。本編ラストであり、今回のツアーのテーマでもある「CABARET」では、ゴシックなレースのアイマスクを装着したバックダンサーが登場。3人だけでも目を見張るほどのインパクトがあったパフォーマンスはビルドアップし、マシンガンは全方位へ、KamusとHIDEKiSMの背中越しにTakassyが歌うハイライトのパートは蓮の花が咲き誇るような神々しさへと変貌していた。〈The show must go on〉ーー目には見えない場所から降ってくるようなこのフレーズに、「THE CABARET」のまだ見ぬ無数のフロアを感じずにはいられなかった。