病気療養からの復帰作にして勝負作、市川由紀乃『朧』レビュー

「心かさねて」「花わずらい」など数多くのヒットを放ち、その豊かな表現力と歌唱力で多くの人の心を惹き付ける演歌歌手・市川由紀乃。病気療養のため昨年6月から歌手活動を休止していた彼女だが、約半年間の闘病を経て今年2月からめでたく活動復帰。そんな市川の本格的な復帰作となるニューシングル『朧』が5月20日に発売された。
今回の表題曲である「朧」、そして<豪華盤>と<通常盤>それぞれに収録されるカップリング曲の全3曲は、すべて一昨年の日本レコード大賞優秀作品賞を受賞した「花わずらい」を手掛けた作家陣が制作を担当。新たな決意と感謝、そして美しい歌声をファンの元へ届ける勝負作となっている。ここからは新曲3曲のレビューを実施。逆境を乗り越えた市川が歌うに相応しい強力な楽曲たちを紹介していこう。
「朧」
イントロとAメロの唸るような力強いギターの音色で心をグッと掴んできたと思えば、Bメロではしっとりとしたサウンドと表現力でリスナーの心をかき乱し、サビで覚悟の決まった女の切実な想いを情熱的に歌い上げる。卓越した歌唱力と表現力で1人の女の恋路を歌った、まさに市川由紀乃の魅力ここにありと思わせる歌謡ナンバーだ。また、女の熱情が散りばめられたパワフルな歌詞でありながら、どこか上品さも感じられる絶妙なバランス感覚も見事。女の強さ・脆さを綴った一級品の歌詞もじっくりと読みこんでもらいたい。
「オリガミ」 ※〈豪華版)収録
激しい感情を表現したのが「朧」なら、さめざめとした失恋の悲しさを歌ったのがこの「オリガミ」。別れを直接伝えず、折り鶴にしたためた恋文によって身を引く古風な主人公の切ない女心が、哀愁を誘う市川の歌声と、アコースティックな弦と鍵盤の音色によってしとやかに表現されている。また、この曲の切なさに一層拍車をかけているのが、夫婦円満の象徴である鶴が彼女の元から飛んで行くという詩的な比喩。折り鶴に残した想いは未練か、それとも自己犠牲故の純愛か。物語の余白を感じさせる1曲だ。
「夕化粧」 ※〈通常盤)収録
“臆病“ という夕化粧の花言葉がちらつく、ほかに想い人がいるであろう恋人の前では気丈に振る舞いながら、そんな状況には耐えられないと泣きはらす女の重たく脆い感情が綴られたメロディアスな1曲。特に抑揚や声色だけで悲しさや切なさに加えて“危うさ”までも表現した「泣かせて 泣かせて」から始まるサビは、市川だからこそできるボーカル表現と言っても過言ではないだろう。ムーディーな昭和歌謡の雰囲気も相まって、多くの人の心に確かな爪痕を刻み付けること間違いなし。
療養明けとは思えないくらい人の心を揺さぶるパワフルな楽曲が並んだ今回の新曲たち。逆境を乗り越えたことで女の強さ・脆さの表現がさらに磨かれたような気がするのは筆者だけではあるまい。デビュー33年目を迎えても市川由紀乃の進化は止まらない。
そして今回の新曲を引っ提げての復帰公演「市川由紀乃コンサート ただいま!」が5月19日に埼玉・サンシティ越谷市民ホール、5月28日・29日に大阪・新歌舞伎座、6月20日に愛知・日本特殊陶業市民会館フォレストホールで開催される。約1年ぶりとなる彼女のソロステージ。元気に歌う姿に目を細めながら、彼女の復帰ステージを祝おうではないか。
Information
市川由紀乃『朧』
発売日:2025年5月20日
豪華盤:https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKIZM-815/
通常盤:https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKICM-31170/
音楽配信:https://king-records.lnk.to/a3XJGxwb
【豪華盤】(KIZM-815~6)定価:¥2,500(税込)
<CD>
01.「朧」 作詞:松井五郎/作曲:幸 耕平/編曲:佐藤和豊
02.「オリガミ」 作詞:松井五郎/作曲:幸耕平/編曲:佐藤和豊
03.「朧」(オリジナルカラオケ)
04.「朧」(一般用カラオケ半音下げ)
05.「オリガミ」(オリジナルカラオケ)
06.「オリガミ」(一般用カラオケ半音下げ)
<DVD>
「朧」ミュージックビデオ、「朧」ミュージックビデオ・メイキング映像
「朧」【通常盤】(KICM-31170)定価:¥1,500(税込)
<CD>
01.「朧」 作詞:松井五郎/作曲:幸 耕平/編曲:佐藤和豊
02.「オリガミ」 作詞:松井五郎/作曲:幸耕平/編曲:佐藤和豊
03.「朧」(オリジナルカラオケ)
04.「朧」(一般用カラオケ半音下げ)
05.「オリガミ」(オリジナルカラオケ)
06.「オリガミ」(一般用カラオケ半音下げ)