森口博子 40周年アニバーサリーツアー 第二章 “二人だけの語らい” (歌とピアノ編)ライブレポート

40周年ツアー「第二章」完結
武部聡志との魂を抱きしめる至高のアンサンブルで魅せた、 歌声とピアノだけの“真剣勝負”
歌手・森口博子が5月21日、東京・草月ホールで、デビュー40周年を記念して行われた「森口博子 40周年アニバーサリーツアー 第二章“二人だけの語らい”(歌とピアノ編)のツアーファイナルを迎えた。令和に発売したアルバム8枚全てがオリコントップ10入りするなど常に進化を続ける森口が次なる一手として挑んだのが、音楽プロデューサー・武部聡志とのピアノと歌だけのコンサート。最小編成だけにアーティストの地力が試されるが、森口の声という楽器と武部によるピアノ演奏という二つの熟練した魂が呼吸を合わせ、一音一音を丁寧に紡ぎ出す至高のアンサンブルによる圧巻のステージが展開。表現者として円熟味を増しつつある森口の新たな挑戦の集大成となったツアーファイナルの模様をレポートする。
コンサートの幕開けを飾ったのは「銀色ドレス」。森口のデビューシングル「水の星へ愛をこめて」のカップリング曲であると同時に、今年1月に開催された「森口博子 40周年アニバーサリーツアー 第一章“Your Flower”」のツアーファイナルのダブルアンコールで、第二章の“相棒”でもある武部とサプライズで披露した曲でもある。武部が奏でる前奏を聴き、そのことに思い至ったファンも多いだろうが、その後の森口と武部のMCで“答え合わせ”も。第一章の終着点を第二章の出発点に据えるというエモーショナルな演出は、森口のアニバーサリーイヤーをまだまだ祝いたいと思うファンの心境ともシンクロ。コンサート冒頭から心を一気につかまれた。
続く「星より先に見つけてあげる」では、武部の繊細かつダイナミックな伴奏が名曲に新たな息吹を吹き込んだ。ピアノ一本という編成と大好きな人への思いを表現する森口のキュートさを帯びた歌声が相まって、楽曲の解像度がより鮮明になりファンを魅了。いつも以上に森口の歌声がダイレクトに響き渡り、会場全体を歓喜に酔いしれさせていた。

MCをはさみ、松田聖子の「瑠璃色の地球」をカバー。「聖子さんを目指して芸能界に入った」と憧れを口にする森口が、原曲のアレンジを担当した武部の伴奏で歌唱する奇跡のセッションが実現したことに感謝すると、会場からも大きな拍手が巻き起こった。カバー曲は開催地ごとに曲を変えてきたが当初、「瑠璃色の地球」は愛知公演で披露する予定だったという。東京公演では松任谷由実の「やさしさに包まれたなら」の予定だったが、武部の「愛知にはジブリパークがあるし、博子ちゃんは聖子さん好きだよね」という提案で変更。そんな一期一会のパフォーマンスがツアーファイナルを華麗に彩っていた。
ここで「サトシ・イントロドン」と題した、観客参加型のイントロクイズに突入。あの武部にピアノでイントロクイズを出題させる贅沢な展開に会場全体が白熱した。かつて音楽クイズバラエティー番組「クイズ・ドレミファドン!」に出演した際、「36問答えてから呼ばれなくなった」と自身にまつわる“伝説”を語り自信をのぞかせていた森口だが苦戦。特に「瞳はダイアモンド」を答えられなかったときは、「聖子ファン失格」と肩を落としていた。
バラドルとして軽妙さとシンガーとしての遊び心が交差する企画で緩和を挟み込み、武部の流麗なピアノが醸し出すほどよい緊張感を調和する。全方位型でエンターテインメントを提供する森口のコンサートならではといえるだろう。そんな笑いに包まれた会場が一気に静まり返ったのは、森口が語った深夜のデニーズで出会った75歳の女性のエピソード。午後10時半に一人、チョコレートパフェを堪能する女性に話しかけた森口は勝手にストーリーを妄想するも、実は膝の悪い夫を気づかいつつ夜の散歩を楽しむ生活を謳歌していたとわかり、会場が再び笑いに包まれた。
その女性からかけられた「頑張らなくていい。できる範囲で楽しめばいい」という言葉に癒やされた思いを乗せて届けたのが、「Someday Everyday」。平松愛理による歌詞の哲学性が、ピアノの躍動感と共に観客の心に火を灯し、森口の小気味よいボーカルとピアノ伴奏が歌詞の深みをより際立たせていた。曲の終盤では「Someday」「Everyday」、「Someday」「武部さん」などのコール&レスポンスで大いに盛り上がっていた。
続いては真紅なライトアップが映える「サムライハート」をアクト。ピアノだけという編成では驚きの選曲で、「無茶振り」と武部も苦笑しつつ、そこはさすがの一言。鮮烈なロックナンバーがピアノ一本でもいかにアグレッシブで、力強く生まれ変わるかを証明してみせるようなアレンジで魅せる。森口も原曲ではディレイの部分をフェイクでカバーするなど、凄みを感じさせるパフォーマンスは圧巻だった。

前半最後に歌ったのは、「リストラ宣告を乗り越え、再び歌手としてのスタートラインに立たせてくれた曲」と森口が感謝し、運命を変えたという「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」。紅白初出場の記憶とファンとの幾多の巡り合いを生んだ曲を、彼女は慈しむように歌い上げた。今となってはガンダムソングや映画の文脈を超え、普遍的な祈りの歌となった曲は、キャリア重ねて深みを増した森口の声でかつてないほどの慈愛に満ちて響き渡る。歌い終えた後、会場中を優しく見渡す森口の視線が印象的だった。
15分の休憩を挟んだ第2ステージは、自身のキャリアとは切っても切り離せないガンダムソングの真骨頂からスタート。ピアノオンリーとは思えぬ激しいアレンジの「Ζ・刻を越えて」をアダルティーかつセクシーさを醸し出すボーカルで、そして大人のバラードとして再構築された「水の星へ愛をこめて」をしっとりとピュアな雰囲気でと、多彩な表現で『機動戦士Ζガンダム』ソングを続けて披露した。後半の開幕も『機動戦士Ζガンダム』関連曲というのは森口らしい。そんな森口は、かつてデビューアルバムのB面に収録された「水の星へ愛をこめて」のインストゥルメンタル・アレンジバージョンを、当時は「なんて大人っぽいアレンジなんだろう、こんなオケで私はまだ歌えない」と感じていたと回想。しかしこの夜のステージにいたのは、人生の機微を全て音に乗せることができるシンガーだった。

森口と武部の絆は長い歴史に裏打ちされている。来年で50周年を迎える武部がピアノと歌手だけでツアーをまわるのは今回が初。厚い信頼関係がうかがえる。武部は今回のツアーを通し改めて「博子ちゃんの楽曲はいい曲ばかり。作家の方たちが心を込めて作ったことが伝わってくる」と実感した言葉からは、一人の歌い手に対する真摯な敬意がにじみ出ていた。互いのリスペクトがあるからこそ、ステージ上であうんの呼吸の合致が生まれるのだろう。そんな武部に対し、森口は「それが誇りです!」とうれしそうな笑顔で応じていた。
余韻さめやらぬ中、40周年アニバーサリーアルバム『Your Flower ~歌の花束を~』の収録曲で自身の骨折という苦境をへて生まれた、ドラマ「101回目のプロポーズ」の音楽を担当していたピアニストの西村由紀江が作曲と編曲を手がけた「ペンタス」を歌唱。武部の胸を打つような演奏、車椅子や松葉杖を抱えていた当時の心細さを吐露しながら森口自身が綴った歌詞に、ペンタスの花言葉「希望が叶う」「願い事」に寄り添ったような歌声は、多くの観客の涙を誘った。

続けてのアクトは「だからここにいるんだね」。曲の終盤、森口とファンが一体となって歌う様子は、曲名でもある「だからここにいるんだね」という互いの気持ちをさながら確かめ合うかのようで、歌い終わりには森口は涙声に。清涼感と憂いの不思議なブレンドの雰囲気の中、歌い終えた森口は鳴り止まぬ拍手に何度もお辞儀し、感極まって目頭を拭う場面も見られた。この2曲を続けて聴くと、両曲の世界観がより広がり歌詞の深みもグッと増したような味わい深さがあった。森口のファンに向けて、そして自分に向けて慈しむように歌う姿も印象的だった。たゆまぬ努力と常に進み続けること、そして時には一旦立ち止まる大切さを知った森口だからこその説得力ある歌声で、えもいわれぬ多幸感に包まれた。
ここで会場に向けて「一緒に歌ってくれたお礼に」と口にした森口が、苦手だという楽器、それも武部とのピアノ連弾を披露すると宣言。場内から歓声が沸く中、緊張した面持ちの森口は武部の隣に座り「ねこふんじゃった」の連弾をスタートさせ、その見事な演奏にさらなる大歓声が巻き起こった。弾き終えた後、立ち上がって声援に応えようとした森口を武部が制止し、スピードアップした連弾を要求。それも果敢に弾きこなした森口に、さらなる声援と拍手が送られた。

盛り上がったところでたたき込んだのが「LUCKY GIRL ~信じる者は救われる~」から『スピード』へと畳み掛ける90年代ソングの躍動だ。どちらも合いの手やクラップ、そして森口によるあおりなど、バンドスタイルを彷彿とさせるほどの爆発力で、会場のボルテージをより一層押し上げる。どんなときも、どんな場面でも自分らしく周りの人を楽しませることを忘れない森口のスタイルを再認識した瞬間だった。
第2部にしてコンサートのラストを締めくくったのは『Your Flower ~歌の花束を~』収録曲の「真心ブーケ」だ。長年の盟友であり作曲を手がけたTM NETWORKの木根尚登とのやりとりで年齢を重ねることに肯定的になれたとユーモラスに明かし、さらに畑亜貴が作詞した歌詞の中で特に「ちょっとだけ褒めてみようかな」というフレーズが好きだと語った森口。そのフレーズを“通過点”と解釈していると話す姿からは自負と謙虚さが同居している様子がうかがえ、40周年を迎えてなお今が一番楽しいと言わんばかりのまばゆさが感じられた。静謐さに見え隠れする熱量の高い青白い炎をまとったかのようなパフォーマンスに、観客から惜しみない拍手が送られていた。

2人がステージを後にした途端、会場からはアンコールを求める鳴り止まない拍手が。再びステージに登場した森口はファンに感謝しつつ武部を呼び込み、アンコールとして「ETERNAL WIND」の“その後”を描いたアンサーソング「ETERNAL DAYS ~あなたがいてよかった~」を歌唱。切なさの中にあるあたたかさ、哀しみの中のやさしさなど、森口が歌う楽曲には心の奥底まで訴えてくる傑作が数多くある。だからこそ2部構成やアンコールのオープニングやラストが大いなる輝きを放つのかもしれない。「ETERNAL DAYS」もまた、雄大で包み込むような歌唱にはファンへの熱い思いと深い愛情がほとばしり、歌声にそっと抱きしめられている感覚があった。
曲の最後に「あなたがいてよかった」という二回繰り返されるリフレイン。作詞・作曲を手がけた西脇唯から、一回目は「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」へ。そして二回はファンに向けてと込められた思いを聞いた森口は、とても純粋で誠実なラブレターを届けるかのように会場全体を見渡しながら、支え続けてくれている「あなた」への魂からの謝辞を歌声に乗せて届けていた。その誠実さに、会場の誰もが胸を熱くしたはず。歌い終えた森口はファンに向けて何度も「ありがとう」の言葉を口にしていた。

MCではアニバーサリーツアー第一章の映像作品の発売に先駆け、全国の映画館での上映イベント開催やダイジェスト映像を発信することを発表。ファンから大歓声を浴びた森口は、「まだ終わりたくない」「まだ帰りたくない」と名残惜しそうな表情をみせつつ、第二章のラストアクトとして届けたのは「ホイッスル」だった。今年8月に行う40周年ツアーのグランドファイナルを飾る「森口博子 40周年アニバーサリーツアー 第三章 “一夜限りのStarry Symphony” (オーケストラ編)」に向けて、ピアノとの語らいというスタイルでも一体となってもっと盛り上がりたい思いもあったのでは。曲前に森口が「最後は立ってもいいよ」と呼びかけていたが、もしかしたら森口自身が誰よりもファンとはしゃぎたかったのかもしれない。しっとり終わらず客席総立ちでポップに盛り上がり、明日への活力を与えてフィナーレを迎える。それもまた森口博子のコンサートの醍醐味なのだろう。
歌声とピアノという最小限の編成でも存分に魂が揺さぶられる。この夜、森口博子というアーティストの誠実さと音楽への尽きぬ情熱が刻み込まれたパフォーマンスが証明。観客たちは森口と武部の“語らい”を通じ、改めて音楽の素晴らしさに触れることができたはずだ。コンサート中のMCで森口が「またやりたい」と話していたが、武部もまた「またやろう」と意欲を見せていた。森口が常々口にしているように、まさに奇跡の“再会”に期待したい。そして8月には「第三章」となるオーケストラコンサートを控える森口。アニバーサリーはまだ「未完成」にして「旅の途中」。止まることを知らない森口の情熱が、次にどのような景色を見せてくれるのだろうか。
森口博子 40周年アニバーサリーツアー 第二章 “二人だけの語らい” (歌とピアノ編)

日程:2026年5月21日(木)
会場:東京・草月ホール
セットリスト:
1.銀色ドレス(『機動戦士Ζガンダム』挿入歌)
2.星より先に見つけてあげる(『ワンパンマン』エンディング主題歌)
3.瑠璃色の地球(カバー/松田聖子)
4.Someday Everyday(『ラ・ラKiss』オープニングテーマ)
5.サムライハート(『鎧伝サムライトルーパー』主題歌)
6.ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~(『機動戦士ガンダムF91』主題歌)
7.Ζ・刻を越えて(『機動戦士Zガンダム』前期オープニングテーマ)
8.水の星へ愛をこめて(『機動戦士Ζガンダム』後期オープニングテーマ)
9.ペンタス
10.だからここにいるんだね
11.LUCKY GIRL ~信じる者は救われる~(『夢がMORI MORI』テーマソング)
12.スピード(『夢がMORI MORI』テーマソング)
13.真心ブーケ
<アンコール>
14.ETERNAL DAYS ~あなたがいてよかった~
15.ホイッスル(『夢がMORI MORI』テーマソング)
text:遠藤政樹
Photo:高田真希子
Information
コンサートBlu-ray『森口博子 40周年アニバーサリーツアー “Your Flower”』
発売日:2026年6月17日
<数量限定版>(Blu-ray+2CD)
【価格】¥11,000(税抜価格¥10,000)
【品番】KIXM-90667
【パッケージ仕様】
・Blu-ray:コンサート映像
・CD(2枚組):コンサート音源
・スペシャルBOXパッケージ仕様
・20Pコンサートフォトブック同梱
・ポストカード2枚同梱
<通常版>(Blu-ray Only)
【価格】¥7,500(税抜価格¥6,818)
【品番】KIXM-667
詳細:https://www.kingrecords.co.jp/cs/artist/artist.aspx?artist=10058
