“過去”と“現在”のlynch.の邂逅 リテイクアルバム『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』レビュー

バンド結成20周年を記念して昨年12月から20周年プロジェクトを展開中のlynch.が、4月30日にRETAKE ALBUM『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』をリリースした。今回のアルバムはインディーズ時代にリリースしたCDのうち、初期のアルバム作品2枚を中心に現在では入手困難となっている楽曲計21曲を新たに再レコーディングしたもの。今回のリテイクアルバムは音源の入手し易さの改善という意義はもちろんのこと、インディーズ時代の楽曲も積極的にパフォーマンスするライブバンドのlynch.にとって、ファンと共に成長した楽曲が“今のlynch.の歌”としてCDにパッケージングされるという観点でも大きな意味を持つ。また今回のアルバムには、書き下ろしの新曲「GOD ONLY KNOWS」も収録され、付属のBlu-rayには「GOD ONLY KNOWS」のミュージックビデオとメイキング映像も収録。当時のlynch.と現在のlynch.、どちらも堪能できる1枚作品となっている。
ここからは今回のアルバムのうち、9曲をセレクトしてレビューを実施。十数年という歳月を経てさらに新しい魅力がプラスされた初期の名曲たちをじっくりと味わってみよう。
『UNDERNEATH THE SKIN』
「QUARTER LIFE」
メロディアスでありながらどこか衝動的でもある。そんな二面性を持った締め付けるような切なさを抱えた1曲は、パワフルなリズム隊と歪みまくるギターの音色、要所で繰り出される葉月の艶のあるボーカルとデスボイスなど、lynch.らしさが詰まったパワーチューンであり、ファンの間では初期の名曲としても名高い。終盤にかけて一気に盛り上がる展開は何度聴いても気持ちが良いことだろう。ラストの“それでも今は 独りで闘え”という歌詞に呼応するかのように、それまで歪んでいたギターがクリーントーンで際立つように演奏されていくという仕掛けも印象的だ。
「矛盾と空」
楽曲の雰囲気にいつまでも浸っていられる、メロディアスでメランコリックな聴かせるミディアムバラード。愛しさ・寂しさ・切なさといった様々な感情が垣間見える葉月の柔らかな歌声は、どこか気持ちを駆り立てるような焦燥感すらも感じさせるほど繊細だ。歌声とギターのアルペジオのみで奏でられる終盤の沁みるフレーズ、そこから再度5人の音になって曲が再開される一連の流れに心がグッと掴まれるのは筆者だけではないだろう。
「ラティンメリア」
妖艶なヘヴィロックの印象が強いlynch.の曲の中でも特に異彩を放つ、7分以上もあるバラードナンバーの大作。親愛なる人へ捧げる心を揺さぶるような切なさと、楽曲全体から薫る美しさの両立がこの曲の最大の特徴である。静謐な雰囲気の中じわじわと心に響くギターの音色、後悔の真っ只中でも残酷に時を刻むドラムのリズム、葉月の包み込むようなエモーショナルな歌声など、すべての要素がリスナーの涙腺を刺激してくるに違いない。感傷に浸るような後悔の吐露が収められた歌詞は、儚くもあり、どこか幻想的ですらある。
『UNDERNEATH THE SKIN』
「THE WHIRL」
様々なアルバムに再録されている人気曲。開幕から鳴り響くヘヴィなサウンドでリスナーをlynch.の世界に引きずり込んだと思ったら、そこから切なくもメロディアスな展開にガラリと変化。そこから攻め立てるようなサビ前のデスボイスでまた激しさを突き付ける。静と動、ソフトとラウドのコントラストに振り回されるような1曲であり、葉月の妖艶で吐息混じりのボーカルも相まっていつまでもこのアングラでダークな世界観に浸っていたくなる。
「MELT」
ジャギジャギとしたリズミカルな重低音が鳴り響くミディアムナンバーは、エロティックで妖しい歌詞と吐息混じりのセクシーなボーカルがたまらない初期の人気曲の1つ。ライブでのヘドバンの印象が強い人も多いかもしれない。他の楽曲と比べるとシャウトは抑えめで、どちらかと言えばポップ寄りなナンバーとも言えるだろう。この楽曲は10周年ベスト盤でも再録しているため、当時の低音ボイスと今回のリテイク版の葉月の歌声を聴き比べ、彼らの音楽の変遷を辿ってみるのも面白いかも。
「LIZARD」
葉月のシャウトとデスボイスを存分に浴びるならこの楽曲。獣のように吼える荒々しいシャウトと、ねっとりと舐め回すようなセクシーなボーカルが交互に登場するメリハリのある楽曲展開は、テンションの落差が非常に大きいこともあって、聴いているこちらの情緒もどうにかなってしまいそうになる。また、この曲はシンプルな展開故にサウンドをじっくり堪能できる楽曲でもある。中盤での魅せるギタープレイも含め、聴くたびに発見があるに違いない。
「GOD ONLY KNOWS」
「GOD ONLY KNOWS」
ラップのようなポエトリーパートも織り交ぜながら、“GOD ONLY KNOWS”という耳触りの良いフレーズをBメロで何度もシャウトし、メロディアスなサビに休みなく繋げていく。リテイクアルバムに収録される唯一の新曲は、キャッチーなカッコよさとパワフルなスピード感にあふれたlynch.らしさが全開な1曲で、歌詞に登場する“快感中毒”という言葉どおり、何度聴いても聞き飽きないダークな爽快感がたまらない。初期楽曲を収録したDISKの新曲に“死ぬまで追うと言ったアンタ、どこへ消えた?”とシニカルに煽るようなフレーズを入れ込むのも彼ららしい。
「A GRATEFUL SHIT」
フロアをぶち上げる激熱のラウドロックナンバー。疾走感あふれるハイテンポでパワフルなビート、楽器隊から繰り出される心地良い重低音、オーディエンスとともに叫ぶ“Like a Stalin”のパートなど、ライブナンバーとして完璧な1曲だ。そして妖艶な葉月のボーカルとデスボイスに加えて、“目を奪え 足を奪え 高らかに晒え”といった強い言葉を衝動のままぶちまけるようながなり声も耳を惹く。これまでライブver.しか再録されていなかったため、今回のリテイク版で新たな魅力に気付く人も多いはず。
「DIZZY」
英語のスラングで“愚かな”を意味するタイトルを冠した1曲なだけあって、直接的な言葉が並ぶ激しい歌詞のインパクトは強烈である。時折挿入される葉月の見下すような不敵な笑い声も、この楽曲の暴力性に一層拍車を掛けていると言ってもいいだろう。当時としては短い3分に満たない楽曲ではあるが、1分30秒あたりから始まる楽器隊の見せ場や勢いのまま突き進むグルーヴ感もあって、短いながらも満足度の高い1曲になっている。
今回のアルバムを引っ提げて、4月18日から6月20日にかけて、今回のリテイクアルバムを冠したライブツアー「TOUR’25-UNDERNEATH THE GREED-」が全国16都市17公演で開催される。今回のリテイクアルバムの発売によって、レア音源と化していた多くの曲たちがファンの日常に溶け込むこととなる。多くの人に知れ渡ったこれらの楽曲が今回のライブツアーでどのような盛り上がりを見せるのか、楽しみで仕方がない。
Information
lynch.『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』【数量限定盤】
2025年4月30日(水)Release
KIZC-90771~90774 ¥9,900(税抜価格:¥9,000)
buy:https://www.kingrecords.co.jp/cs/g/gKIZC-90771/
【Disc.1:CD】『GREEDY DEAD SOULS』
≪収録内容≫※全曲新録
➀VERNIE/➁QUARTER LIFE/➂矛盾と空/➃59./➄らせん/➅REW/➆SLEEPY FLOW/⑧UNKNOWN LOST A BEAUTY/⑨DISCORD NUMBER/➉ラティンメリア/⑪PULSE_
listen:https://king-records.lnk.to/dPpkfA
【Disc.2:CD】『UNDERNEATH THE SKIN』
≪収録内容≫※全曲新録
➀THE WHIRL/➁ALIEN TUNE/➂MELT/➃LIZARD/➄ABOVE THE SKIN
listen:https://king-records.lnk.to/zwh7BU
【Disc.3:CD】『GOD ONLY KNOWS』
≪収録内容≫※全曲新録
➀GOD ONLY KNOWS(新曲)/➁A GRATEFUL SHIT/➂STUCK PAIN/➃STARZ/➄無題/➅DIZZY
listen:https://king-records.lnk.to/9ZNlvR
【Disc.4:Blu-ray】
・GOD ONLY KNOWS(新曲)MUSIC VIDEO
・GOD ONLY KNOWS(新曲)MUSIC VIDEO MAKING