【ベルウッド・レコード50周年】 PICK UP LIBRARY 第5回

ベルウッド・レコード設立50周年を記念して9月30より、初期の名盤アルバムがダウンロード/サブスクリプション/ハイレゾにて配信開始!
ベルウッド・レコード往年のファンはもちろん、配信で初めて耳にする方にもまずはこれを聴いて欲しい、必聴タイトルをピックアップしてキングレコードスタッフがご紹介していきます。

▶はちみつぱい「センチメンタル通り」

1973年に発売された、はちみつばい唯一のスタジオアルバム。

はちみつぱいの歴史は、1970年に鈴木慶一とあがた森魚が中心となって結成した「あがた精神病院」から始まる。同年、あがたのバックバンドへと形を変えると同時に「蜂蜜麭麺(はちみつぱい)」と名称を変えるのだが、これはビートルズの楽曲「ハニー・パイ」を由来とし、あがたによって命名されたものである。
1971年頃からあがたがソロシンガーとしての活動を本格化させたこともあり、独立したロックバンド「蜂蜜ぱい」として活動する様になり、渋谷百軒店のロック喫茶BYGをはじめ、第三回全日本フォークジャンボリーのサブステージや春一番コンサートなどで演奏をするようになっていく。初期はメンバーも流動的であり、編成もその都度異なっていたが、1972年頃にスチールギターの駒沢が加入したあたりから「はちみつぱい」へと表記を変え、独自のカントリー・ロックサウンドが形成されていった。

その後、あがたをはじめとする様々なアーティストのレコーディングを経験した末に1973年に発売されたのが、「センチメンタル通り」であり、元メンバーの渡辺勝、最初期の蜂蜜麭麺時代にメンバーであった山本浩美も参加している。

1曲目は、リーダー鈴木慶一作詞作曲の「塀の上で」が飾る。ロックに違和感なくはめ込まれた日本語詩やドラムとベースによるリズムが作り上げる抒情的なムード、終盤に向けて鍵盤やギター、コーラス等が折り重なっていく展開によって、壮大なバラードナンバーとなっている。
フィドルやスチールギターの入った編成ならではのインスト曲「ヒッチハイク」、ゆったりと心地よいカントリーテイストの「夜は静か通り静か」など、最後の1曲まで聴き逃がすことのできないアルバムだ。

当時の日本では類を見ない、独自性を持ったサウンドが詰め込まれたこのアルバムは、はっぴいえんどの作品群と共に日本ロックの先駆的な作品として高い評価を得ている。

これまでLPやCDでの再発に加え、45回転重量盤LPやDVD-ROMなど様々なメディアで発表されてきた本作。熱心なファンの方にはこれまでのリリースの際の音と今回の配信音源、さらにはハイレゾ音源との聴き比べも楽しんでいただけるだろう。

〇オリジナルリリース:OFL-16(1973年リリース)

<参加ミュージシャン>
はちみつぱい(鈴木慶一、武川雅寛、駒沢裕城、本田信介、和田博巳、カシブチ哲郎)
大貫妙子、宮悦子、吉田美奈子、流浪の勝 from “Old Times Brass Band”、山本浩美 from “Moon Riders of Purple Sausage”

◆再生はこちらから
https://king-records.lnk.to/SentimentalDori

▶岩井宏「30才」

岩井宏は、第2回で紹介した高田渡や加川良らと共に1960年代から日本フォークシーンの第一線で活躍するロングネック・バンジョーの名手でありながら、アート音楽出版の社員として数多くの作品に携わる音楽ディレクターとしての顔も持つ稀有な存在であった。
ベルウッド・レコードでもミュージシャンとしてレコーディングに参加する傍ら、いくつかの作品でディレクターを務めたという点で、レーベルに対する貢献度が特に高い人物の一人と言えるであろう。

そんな岩井が、自身のソロ名義で残した唯一のアルバムが本作である。同封されたライナーには「Dedicated to my son , Satoshi.」という文字があり、彼の息子に向けた作品という位置づけでもあった。

本作は、歌・バンジョーの岩井、サイドボーカル・ギターの加川良、多彩な奏法が光るギターの中川イサトという3名によるセッションで演奏されており、アメリカンフォーク的なアコースティック・サウンドを楽しむことができる。新たな音楽を追求することを掲げていたベルウッド・レコードが日本フォークの原点に立ち返ると同時に、岩井のアーティスト性を素直に提示した作品となっている。

多くのステージを共にした高田渡の詩に曲を付けた「小さな歯車に油をさそう」や、ウディ・ガスリーで知られる「Hobo’s Lullaby」と言ったフォーク好き必聴の楽曲に加え、岩井の作詞作曲によるハートウォーミングな楽曲群は多くのリスナーの心に寄り添うことだろう。特に岩井の少年時代を歌っている様な「路地」「かみしばい」、息子へのメッセージとも言えるであろう「30才」はこのアルバムのあたたかい世界観を決定づけている。

60年代から70年代のフォークシーンを牽引したレジェンドである岩井の終着点となり、未来にも語り継いでいくべき洗練された味わいを持つ1枚だ。

〇オリジナルリリース:OFL-13(1973年リリース)

<参加ミュージシャン>
岩井宏、加川良、中川イサト

◆再生はこちらから
https://king-records.lnk.to/30sai

▶オリジナル・ザ・ディラン「悲しみの街」

本作の制作経緯を解説していく上で、まずバンド結成からの変遷を押さえておきたいと思う。

1969年、大塚まさじが大阪に喫茶店「ディラン」をオープン。マスターである大塚と常連であった西岡恭蔵、永井ようの3人を中心とした”ザ・ディラン”というバンドが結成され、3人以外はその都度違ったメンバーが加わるという流動的な形でコンサートなどに出演するようになった。約2年間活動した後に、西岡が怪我によりザ・ディランを離れることとなり、解散コンサートを以てバンドは活動を終えた。

その後、大塚がソロで音楽活動を再開していたところ、永井がそれを手伝うようになったことで”ザ・ディランⅡ(セカンド)”としての活動が幕を開け、1971年にURCよりシングル盤を発売してレコードデビュー。1973年までの時点でシングル2枚、アルバム2枚を発売することとなる。

そんなザ・ディランⅡのベルウッド・レコード移籍第1弾として、前身のザ・ディラン時代のメンバーを迎え、当時のザ・ディランを再現するアルバムを制作することになった。アルバム制作にあたって、関西のロック・ミュージシャンたちを集めて生まれたセッションバンドこそが”オリジナル・ザ・ディラン”である。

本作の楽曲はザ・ディランのメンバーであった西岡恭蔵が全曲の作詞作曲を担い、ドラムの林敏明やベースの田中章弘といった「ディラン」の常連たちも集結することとなった。

「俺たちに明日はない(LP用)」は、一流ミュージシャン同士によるセッションならではのハイクオリティな掛け合いが繰り広げられる名演である。さらに、2022年の今ぜひ聴いてほしい1曲としては「魔法の舟」を挙げたい。スローなテンポで脱力感のあるインディー・ポップは、ここ数年のバンドサウンドにも通ずるものを感じ、若手アーティストによるカバーが聴きたくなるような時代を感じさせない楽曲だ。

本作に参加した佐藤博、林敏明、田中章弘、石田長生は、バンド「THIS」を結成する事となり、後の「鈴木茂とハックルバック」へと繋がっていく。関西ロックの源流のひとつとなり、日本ロック史へも影響を与えた作品といえるだろう。

〇オリジナルリリース:OFL-24(1973年リリース)

<参加ミュージシャン>
大塚まさじ、永井よう、西岡恭蔵、
佐藤博、田中章弘、林敏明、長田和承、石田長生、魔矢イタル、松田幸一、シンガーズ・スリー、Neko、フレディー

◆再生はこちらから
https://king-records.lnk.to/KanashiminoMachi

▶朝野由彦「巡礼」

ベルウッド・レコード発足3年目となる1975年に、金沢で活動をしていたフォークシンガー朝野由彦が発表したソロ・アルバム。

これまで紹介してきた作品では、海外の音楽から影響を受けながらオリジナリティを編み出すアーティストも多かったが、朝野による本作は、歌詞やメロディに海外由来のニュアンスはあまり含まれていないように感じられる。

日本らしい情景や、身近な生活を歌った現代的なソングライティングに加え、国吉良一によるポップなカントリー・ロックサウンドは、当時のフォークシーンに新世代の風を吹きこむ作風であったと言えるだろう。

このような新鮮味を感じさせる要因の一つに、当時設立したばかりであり、シティポップの再評価と共に注目を集めている録音スタジオ「音響ハウス」がレコーディングで使われていることも、影響しているかもしれない。

「ララ・京都」や「我儘者の唄」などはJ-POPとまでは行かないが、1970年代のフォーク・ロックの転換期を感じさせる楽曲だ。唯一無二の空気感を持った本作を聴くと、朝野が残した唯一のアルバム作品となったことが惜しまれる。
リリースから45年以上が経った今だからこそ再評価される、過渡期にあった当時の音楽シーンが反映された一作なのではないだろうか。

〇オリジナルリリース:OFL-33(1975年リリース)

<参加ミュージシャン>
朝野由彦
国吉良一、平野融、吉田健、平野肇、かしぶち哲郎、徳武弘文、長田和承、斉藤伸雄、いとうたかお、竹内正美 & Street Hikers

◆再生はこちらから
https://king-records.lnk.to/Jyunrei

▶ごまのはえ「留子ちゃんたら」

伊藤銀次を中心に結成されたロックバンド、ごまのはえによる唯一の音楽作品。
伊藤銀次のプロデビュー作ということになる。

本作のディレクターは今回のコラムで紹介している岩井宏が務めており、エンジニアははっぴいえんど作品などでお馴染みの吉野金次が担当している。
A,B面共に伊藤銀次が作詞作曲を手掛けた本作。リズムやサウンドを重視した歌詞が特徴的で、日本には数少ないスワンプ・ロックをベースとしたノリの良いサウンドに仕上がっている。同時期に台頭してきた はっぴいえんどやはちみつぱいとはまた異なる演奏スタイルで日本語ロックを体現した。

ごまのはえが残したスタジオ録音作品は本作のみとなり、大瀧詠一の助言を受けてココナツ・バンクへと発展していく。1973年9月21日開催のはっぴいえんどの解散コンサート「CITY-Last Time Around-」には「大瀧詠一とココナツ・バンク」として出演し、第4回で触れた「ライブ!!はっぴいえんど」にその模様が収録されている。ココナツ・バンクとしてはスタジオ録音作品を残すことなく解散となり、幻のバンドとなった。

〇オリジナルリリース:OFL-6(1972年リリース)


<参加ミュージシャン>
末永博嗣、角谷安彦、伊藤銀次、上原裕、藤本雄志、POOH、UNITS + 2、塚口カントリークラブ

【PICK UP LIBRARY】第1回はこちら
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【PICK UP LIBRARY】第3回はこちら
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