プログレを聴こう~KENSO探求紀行~Vol.2

KENSO『KENSOⅡ』(1982年) 清水義央によるセルフライナーノーツ

『KENSO Ⅱ(SECOND)』は1982年3月に私が歯科大を卒業し、同4月に東京のプログレシーンの人気バンドだったアクアポリスと対バンでデビューライブを行うという、気分的にはイケイケの中で作られた。

リリースは同年12月で1,000枚プレスされた自主制作盤だ。収録された8曲のうち4曲が今でもライブで演奏しているということからも間違いなくKENSOの代表作のひとつだと言える『KENSO Ⅱ』。

その最初と最後に演奏される「空に光る」と「さよならプログレ」は、1981年3月頃に作っていた曲の収拾がつかなくなり、ふたつに分けたものを別個に発展させ、両方とも1981年末に完成した曲。1980年末にリリースしたファーストが音楽雑誌のレビューで好意的に取り上げられたことで「自分の音楽を聴いてくれる人がいる!」と勇気付けられ、また「あと一年で歯科大も卒業だ。俺は自由だ。東京のロックシーンに名乗りを上げるぞ!」と気持ちも盛り上がり、次々に曲のモチーフができていった。

「空に光る」では中間部の展開が難航したが、前述のアクアポリスのリーダー・中潟憲雄くんからいわゆる“分数コード”というのを教えてもらったことで窮地を抜けることができ、エンディングはドラマーの山本治彦くんの生意気なアドバイスを素直に受け入れることで完成した。大好きだったPFMの「Four Holes In The Ground」のような曲を書けたと(自分では)思って嬉しかった。

「麻酔part 1」はスティーヴ・ライヒらのミニマルミュージックやYMOの「テクノデリック」から着想を得た。「麻酔part 2」のリフは、トーキング・ヘッズの「Remain In Light」収録曲のリズムを「かっこいい!」と感じてピアノで延々弾き続けていたらできたと記憶している。

「氷島」は萩原朔太郎に心酔していた私が「ドビュッシーみたいな曲を書きたい」という「いやいや、清水くん。キミ、正式な音楽教育受けてないでしょ?和声学も対位法も何も知らないでしょ」と言われそうな無茶な素人考えを抱き、作曲し、小学生の時に田舎のピアノ教室で2~3年習っただけの技術で演奏し録音してしまったという恐ろしい曲だ。でも、ロックの世界にはジョン・レノン他、上手くないけどインパクトのあるピアノ・プレイを残したひともいるんだからいいじゃんか。いつか光田健一くんの珠玉のピアノで再録したいと思ってます。

「ブランド指向」は実家で祖母が洗濯物を乾かしているのを見ていたらできた。タイトルの“ブランド”は多大な影響を受けたジャズロックバンドBRAND Xに因んでいるが、バブル景気に湧いていた当時の日本にみられた、高価なブランド物を身につけることで己の優越性を誇示しようとする傾向を指す「ブランド志向」という言葉をほぼそのままタイトルとして使ってしまったことは、「ブランド志向」の方々よりも私は軽率だったかもしれない。

「はるかなる地へ」は、1976年ハードロック期のボーカル入りナンバーだった「はるかなる時」をインストナンバーに作り変えた。後半のギターソロは完全にスティーヴ・ハケットやロバート・フリップのテイスト。私が多重録音している怪しげなコーラスは、中期ビートルズを意識していたと思う。

「内部への月影」は、キーボード牧内淳くんの音大声楽科在籍中の友人女性とやはり彼の友人だった劇団員女性に、私の作ったメロディを「泣く」「笑う」「怒る」という感情を露骨に表現して歌ってくれるよう要請し、あとから私が好き勝手にミックスするというまたまた出ました素人発想の曲である。ここにもファースト収録の「かごめ」同様、APHRODITE’S CHILDの「∞」からの影響がみられる。歌収録後、声楽科の女性から「清水さんはオペラというものを理解していない」というキツ〜い一言を言われた。そりゃそうさ。だって私、すべて自己流だもの、、、、と開き直ったおかげか、この曲、海外の映画製作者から「海岸で人が死んでいるシーンに使いたい」という依頼があったり、昨年はアメリカのラッパーが「サンプリングして使いたいから許可をくれ」と言ってきて、おまけにそのラップ曲がテレビ番組の挿入歌として使われることになったりと、小遣い稼ぎさせてくれた。私が弾いているのは買ったばかりのシンセKORG Poly6だ。

最終曲「さよならプログレ」には、突き進むエネルギー、迸る若さ、自由に音楽を作れる喜びが横溢している。そして「フュージョンなんて嫌い」と言いながら結講フュージョンから影響受けているのがよく分かる(笑)。

1982年の夏、やっと手の届く価格(とはいえ、ローンを組んだ)になったことで入手できたFostex の8トラックレコーダーを駆使して軽音楽部部室で自分たちの手で録音したセカンドでは、めでたく正式メンバーとなった山本くんのセンスの良いドラミングが全編を彩ってくれている。凡庸なドラマーだったら、私の変拍子曲はもっとギクシャクしたものになっていただろう。感謝!


■KENSO『KENSO II』
https://lnk.to/KENSO2

■プレイリスト第1弾「KENSOの前にコレを聴け」
https://lnk.to/KENSO_Playlist1


■プロフィール

清水義央 Yoshihisa Shimizu (Guitar)
小口健一 Kenichi Oguchi (Keyboards)
光田健一 Kenichi Mitsuda (Keyboards)
三枝俊治 Shunji Saegusa (Bass)
小森啓資 Keisuke Komori (Drums)

1974年、リーダーの清水義央を中心にKENSOを結成。バンド名は在籍校であった神奈川県立相模原高校の略称“県相”に由来する。1980年に自主制作盤1stアルバム『KENSO』をリリースし、1985年にキングレコードのNEXUSレーベルより3rdアルバム『KENSO(Ⅲ)』でメジャー・デビュー。以降、メンバーチェンジを経ながらも長きに亘って活動を継続。ロックをベースに、クラシックやジャズ、民族音楽といった様々なジャンルの要素を採り入れた音楽性や高度な演奏テクニックによって国内外で多くの支持を集め、海外のロック・フェスティバル出演経験も持つ日本屈指のプログレッシヴ・ロック・バンド。

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