プログレを聴こう~KENSO探求紀行~Vol.4
KENSO『イン・コンサート』(1986年) 清水義央によるセルフライナーノーツ
1985年春、憧れの、本当に夢にまで見ていたメジャーの(当時はこう呼んだ、、、今は?)レコード会社、キングレコードからのデビューを果たし気分は上々。
「私はもうアマチュアじゃない。これから私やKENSOのことを“アマチュア”と呼んだら承知しないからね!」
と気勢満々だった私であるが、勤務先の女性スタッフからこんなことを言われた。
「昨日、清水先生のバンドのことをラジオで難波弘之さんが紹介してました」
(えっ!?難波さんそんなことまでしてくれたんだ〜なんて良い人なの)
と思いつつ
「へえ、それでなんて言ってた?」
「“KENSOというすごく良いアマチュアバンドがあって”って言ってました。アマチュアだって、先生、アマチュア、あははは」
と元ヤンのそいつは哄笑したのだ。悔しかった。
そこから私の難波さんに対する、、、、なんてウソウソ。まあそういうこともあったが、普通のレコード店に自分のレコードが置かれることが嬉しく、あちこちの店に行ってちゃんと置いてあるかチェックした。置いてないレコード店では心の中で「この店はだめだ」と毒づいた。
さて、同年9月にこれまた憧れだった老舗ライブハウス、六本木ピットインでライブを行うこととなった。それだけで舞い上がってしまっていたのに、ある日担当ディレクターに言われた。
「清水クン、次のピットイン、録音しておこうか」
「えっ??」
「もしかしたらライブアルバム出せるかもしれないからさ」
「え〜〜〜っ(ものすごく嬉しい)」
どうやらキングレコードのNEXUSレーベルで日本のプログレバンドを何バンドかまとめてリリースする企画があったらしい。
ピットインでの初ライブを初ライブレコーディング!
メンバー間では
「間違えたら差し替えればいいんだよ。そんなのライブアルバムでは常識だからさ」
といった分かったような会話をして不安や緊張を紛らわしていた。
自宅スタジオでの“差し替え”をやりやすくするため、私の16トラックレコーダーを持ち込んで録音することになった。
私は一時期、この『イン・コンサート』を聴くのがいやだったが、今聴き直してみると、約7年後の同じピットインでのライブを収めた『LIVE’92』にはない、ほのぼのとした温かみがあって、これはこれでリリースしておいてよかったと思えた。演奏自体は、ライブならではの緊張感や白熱したインタープレイ、一体感のあるグルーヴなんて望むべくもないが、この当時はこれで精一杯だったと思う。
この頃の私はロックよりもPAT METHENY GROUPやWEATHER REPORTといったJAZZをベースとした革新的バンドに夢中だった。本アルバムには「パット・メセニーに捧ぐ」という副題がつけられた新曲「PM」が収められているが、PはPATの「P」、MはMETHENYの「M」。あまりにも安易で拈りの無い曲名。もっと考えればよかった。
しかもジャケットはPAT METHENY GROUPのライブアルバム『TRAVELS』にかなり似ている。もちろん私が「こんな風にしてほしい」とオファーしたものだが、尊敬するアーティストへの憧れと自分の作品としてのアイデンティティを混同させてしまうあたりがアマチュア、そして表現者として甘ちゃんだったと思う。
それでも、KENSO創成期に大きな貢献をしてくれた山本治彦くん在籍中のライブをクリアな音質で残せたこと、佐橋俊彦・小口健一のツイン・キーボードという新たな個性のスタート地点を記録できたことは価値あることだったと考えている。ギターはまだまだプロフェッショナルな音色の追究が足りずこもり気味なのが気になるが。
当時、某プログレ系輸入盤店(お伽話系が得意)で「フュージョン寄りなのでセールスは期待できない」というポップがつけられていたのは不愉快だったが、まあ私も当時は古臭いプログレに固執する方々に冷ややかな視線を浴びせていたかもしれないので、何方もどっちという感じでしょうかね。
1986年にリリースされた本アルバム、来日公演の楽屋でPAT本人に手渡しできたのは嬉しかったが、「このジャケ、『TRAVELS』とそっくりじゃね?」と感じたかもなあ。
■KENSO『イン・コンサート』
https://lnk.to/KENSO_InConcert
■プレイリスト第2弾「KENSOを聴け(初心者編)」
https://news.kingrecords.co.jp/2023/03/12478/
■プロフィール
清水義央 Yoshihisa Shimizu (Guitar)
小口健一 Kenichi Oguchi (Keyboards)
光田健一 Kenichi Mitsuda (Keyboards)
三枝俊治 Shunji Saegusa (Bass)
小森啓資 Keisuke Komori (Drums)
1974年、リーダーの清水義央を中心にKENSOを結成。バンド名は在籍校であった神奈川県立相模原高校の略称“県相”に由来する。1980年に自主制作盤1stアルバム『KENSO』をリリースし、1985年にキングレコードのNEXUSレーベルより3rdアルバム『KENSO(Ⅲ)』でメジャー・デビュー。以降、メンバーチェンジを経ながらも長きに亘って活動を継続。ロックをベースに、クラシックやジャズ、民族音楽といった様々なジャンルの要素を採り入れた音楽性や高度な演奏テクニックによって国内外で多くの支持を集め、海外のロック・フェスティバル出演経験も持つ日本屈指のプログレッシヴ・ロック・バンド。