森口博子ニューアルバム『ANISON COVERS 2』レビュー 、楽曲に込められた想いを届ける最高の“メッセンジャー”
森口博子が『ANISON COVERS 2』を2024年8月7日にリリースした。振り返ればデビューから34年目、2019年に初となるカバーアルバム『GUNDAM SONG COVERS』を発売し、同アルバムは日本レコード大賞の企画賞を受賞するなどのヒットを見せると以降、「GUNDAM SONG COVERS」シリーズは最終作の『3』までリリースされた。続いて『ANISON COVERS』を2023年に発売しており、つまりはこの5年、ほぼ1年に1枚のペースでカバーアルバムをリリースしてきた。アニソンカバー企画が続発する現在とはいえ、また番組開始からMCを務める『Anison Days』で7年間・約300曲ものアニソンをカバーしてきた実績もあるとはいえ、そのペースは群を抜いている。すなわち、彼女のカバーアルバムが支持と人気を得ている証拠に他ならないが、原曲を超えられない業を背負ったカバーアルバムがこれほど迎え入れられる理由はどこにあるのか。
一つには勿論、誰もが思い浮かべる歌唱力がある。今作『ANISON COVERS 2』は前作に比べると“大人のためのアニソンカバー”というコンセプトを加速させ、アコースティックな面も強まったところを見せるが、森口博子の表現力がその分いかんなく発揮されており、特にその代表となっているのがリード曲で、鳥山雄司のギターと神保彰のドラムという豊かな音色で贈る「想い出がいっぱい / with 鳥山雄司&神保彰」。原曲よりもさらに郷愁感を漂わせつつ、それでいてシティポップ的な煌めくシンセが瑞々しい、というアレンジで森口博子のボーカルを心地よく耳へと誘ってくる。
同様に、歌謡曲風味の原曲をセンチメンタルに仕上げた曲が「ゆめいっぱい / with 鳥山雄司&柏木広樹」だ。こちらは鳥山雄司とチェリストの柏木広樹の手を借りて、木漏れ日のように温かいBOSSAな仕上がりとなっている。どのような楽曲を歌っても陰に落ちすぎない、一筋の希望を歌声に含ませる点は聴いていて大きな魅力だ。
一方、森口博子自身も数多くのアニメソングを歌った平成時代から多数の楽曲が選出されてもいる。音楽的にも市場的にもJ-Pop・Rockとの融合を見せた時期でもあり、アニソンの幅が大きく広がっていったが、森口博子はこのアルバムで多種多様な楽曲を彼女らしく歌いこなしていく。先鋭的であった作品同様にプログレッシヴな曲と詞が今でも人気を集める「微笑みの爆弾」は、原曲のフュージョン感を残しつつもホーンセクションで厚みを加えているが、印象に残る瞬間はやはりシンセメロだけを背にした落ちサビ。森口博子の歌声が際立っており、心に響いてくる。特徴的なラストでも、森口博子らしく強くもあり優しくもあるフィニッシュで決めている。そもそも森口博子がリリースしてきたカバーアルバムはどれも彼女の歌声を全面に立たせており、それが可能なのは紛れもなく森口博子の特性である。
壮大なスケールの「YOU GET TO BURNING」にしてもボーカルを立たせるようにMixされていることに気づくが、森口博子が言葉を大切にし、歌詞のどこをとってもクリアに歌っているからこそ。どの楽曲にも染まる白をイメージさせる歌声だが、白は決して無個性な色ではないと感じさせる。
また、カバーにおいては原曲に対する敬意は不可欠だが、森口博子のカバーアルバムではさまざまなミュージシャンを呼び込んで素晴らしい音楽に仕立てており、そこにはまず原曲を大切に扱う姿勢が見える。そして当然、「STILL LOVE HER(失われた風景) / with 木根尚登(TM NETWORK)」では木根尚登を招聘、彼のブルースハープをしっかりと取り込んでいるように、原曲の削ぎ落せない本質に対する理解力の高さを物語る。
「ブルーウォーター / with 田ノ岡三郎」でも、感情豊かな田ノ岡三郎のアコーディオンが原曲の持つエキゾチックさ、ライブ感、そして突き抜けるような高揚感を増強させている。
「おジャ魔女カーニバル!! / with 百田夏菜子(ももいろクローバーZ)」では百田夏菜子(ももいろクローバーZ)とデュエットを聴かせるが、百田夏菜子は『おジャ魔女どれみ』の一視聴者であり、かつ放映開始20周年を記念して制作されたアニメ映画『魔女見習いをさがして』では主演の一人として出演してもいる。いわば「公式」のお墨付きをパートナーとして白羽の矢を立てたともいえ、作品イメージの延長線上にあるカバー曲だと感じられる。
ゲーム・アニメ『AIR』の主題歌で20年前に青少年たちを泣きに泣かせた「鳥の詩」のカバーはまさに“大人のための”バージョンで、森口博子の熟した歌声と大人びたアレンジは登場人物たちが背負わされた運命の先に至ったエンディングの、その先の未来に想いを馳せさせるほど。
メロディーが高く高く舞い上がっていく「プラチナ」では、森口の真骨頂ともいえる伸びやかな声が楽曲の特徴と長所を存分に引き出している。
そんな中、持ち歌だからこそできる点として、多少の挑戦と冒険を混ぜているのがセルフカバーの「BE FREE」。アイドル歌手として活動した時期の曲を今の自分にふさわしい形で歌い上げた。それでも和風味を織り込んだのは『鎧伝サムライトルーパー』のエンディング主題歌だったことへの感謝か。
こうして聴いていくと実感するのは、森口博子という歌い手が高い技術だけでは到達できない場所にいるという事実。ギフテッドな声、豊かな表現力も魅力であるが、誰からも愛されるキャラクターも森口博子を唯一無二のシンガーたらしめる要素の一つだと気づく。なぜならば森口博子は、歌詞の言葉をクリアに届け、込められたメッセージを伝えることに優れており、それが彼女が楽曲に対して、聴く人に対して愛情を持って接し続ける人間だから。その人柄ゆえに森口博子は現代最高の“メッセンジャー”として君臨している。と同時に稀代のカバーシンガーとなったのだろう。楽曲に乗せられたメッセージを次々と受け取りながら、そのことに気づかされるアルバムであった。
Information
森口博子『ANISON COVERS 2』
発売日:8月7日(水)
特設サイト:https://cnt.kingrecords.co.jp/ANISONCOVERS2/
各配信サイト:https://moriguchi-hiroko.lnk.to/ac2digital
<初回限定盤>
形態:CD + Blu-ray
仕様:イラストスリーブケース仕様
価格:¥4,000+税
品番:KICS-94160
封入特典:水着の袋とじブックレット<初回限定盤Ver.>
ご購入:https://moriguchi-hiroko.lnk.to/ANISONCOVERS2
<通常盤>
形態:CD ONLY
価格:¥3,000+税
品番:KICS-4160
封入特典:水着の袋とじブックレット<通常盤Ver.>
ご購入:https://moriguchi-hiroko.lnk.to/ANISONCOVERS2TSUJYO