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バーチャルシンガー・HACHI メジャー1stアルバム『for ASTRA.』全曲レビュー、シルキーボイスで紡がれる心に寄り添う13曲

HACHI

VSinger -バーチャルシンガー-という概念をご存知だろうか? 音楽活動に特化したVTuber(バーチャルYouTuber)たちの総称で、VTuberの存在が認知され、その文化自体が盛り上がっていくのに合わせて、VSingerという存在にも次第に注目が集まるようになっていった。今ではインターネットという電子の海を越え、リアルな世界の様々なシーンでVSingerが活躍しており、星街すいせい・花譜・YuNiといった数多くのバーチャル・アーティストたちが、現在進行形でその可能性を切り拓き続けている。

多くの熱狂を集めるVSingerの中でも一際注目を浴びているのが、透明度の高いシルキーボイスと豊かな表現力が持ち味のHACHIだ。2020年にVSingerプロダクションに所属して以降、YouTubeでの定期配信、楽曲リリース、オンラインライブの開催など、コンスタントに音楽活動を展開。国内のみならず海外のBEES(=HACHIのファンの愛称)も増え続け、2023年には東京と台北でリアルライブを開催するなど、彼女もまたバーチャルという境界を飛び越えはじめている。

そんなHACHIが、2024年11月13日にキングレコード/SONIC BLADEからメジャーデビューアルバム「for ASTRA.」をリリース。インディーズ時代を含めて通算3枚目となる今回のアルバムは、“まだ見ぬあなたに届ける歌を”というコンセプトのもと、これまで以上に自身の強い想いが込められた1枚となっている。今回はアルバム収録曲のうち、ボーナストラックを除く13曲の楽曲をレビュー。“あなたの心に寄り添う歌を。”というテーマを掲げながら活動を続ける彼女が、今回どのような楽曲を届けてくれたのか。じっくり見ていくことにしよう。

M1「line, sphere, dot.」& M2「スウィングバイ」

始まりを告げるような約1分間のインストゥルメンタルを経て踏み出したアルバムの第1歩は、メジャーデビューという未知の宇宙へ飛び出すHACHIの心の高鳴りを綴った、希望にあふれたアッパーチューン。この曲の面白い部分は、“速度を上げていく”という言葉通りにどんどんテンポが加速していく2番Aメロ終わりからの流れだろう。「スウィングバイ」の文字通り、歌声の引力に引き寄せられるような不思議な感覚を味わえる展開となっており、リズミカルな2番Bメロを経てどんどん高揚していくサウンドのテンション感から、リスナーである私たちもHACHIの弾むような心情を感じ取れるようになっている。HACHIと私たちの宇宙旅行はここから始まるのだ!

M3「Dusk」

TV アニメ『SHIBUYA♡HACHI』の主題歌にもなっている、UKガラージの要素を入れ込んだ2ステップの良質なポップミュージック。静まり返った夜の都会の雰囲気に似合う、押しつけがましくないチルな雰囲気がとにかく素晴らしい。ハウス感のあるオシャレなサウンドは一歩間違えれば単調になってしまいがちだが、静かな雰囲気ながらエモと抑揚をしっかりとつけたHACHIのボーカル表現や、動きのある間奏のアレンジも相まって、楽曲として一本調子にならず私たちを最後まで飽きさせない作りになっている。

M4「DIVE」

「Dusk」と同じく、DURDNとしても活動するプロデュース・デュオ”tee tea”が手掛けた、ゆったりとしたダンスビートとこれまたハウス感のあるサウンドが印象的な四つ打ちR&Bナンバー。「DIVE」というタイトルどおり、音の海に沈み、身を任せていたくなるような心地よさすら感じられる没入感がたまらなく魅力的で、このサウンドを抗うことなく乗りこなすHACHIの歌声も素晴らしい。目の前の楽しさを追いかける刹那的とも思える歌詞も、じっくり読み込んで見ると様々な解釈が可能。この楽曲の世界観に是非とも「DIVE」してほしい。

M5「異星から」

次世代シンガーソングライター・春野が提供した楽曲は、パーカッションとジャズ調のピアノのみで構成されたシンプルなトラックナンバー。一方で、リリックには“来々軒”“天体ちゅどーん”といった独特な感性を持った単語が時折出現しており、そんな歌詞を時に優しく、時に寂しくつぶやくHACHIの繊細なボーカル表現が、聴く人の心を適度にざわつかせてくれる。楽曲のメッセージ性は至ってシンプル。「異星から」の通信があなたにも聴こえているだろうか?

M6「√64」

繊細な心の内を表現したアコースティックギターの音色、そしてフェイクを多用したコーラスワークが特徴的な、オシャレでムーディーなR&B。楽曲の雰囲気がガラッと塗り替わるラストの転調部分は主人公の心境変化の表現としても巧みであり、HACHIのピュアな歌声も相まってポジティブな余韻を残してくれるはずだ。

M7「万有引力」

楽曲提供した未来古代楽団の砂森岳央らしさがあふれた幻想的な1曲は、HACHIの儚くも切ないリードボーカルに、独自言語も駆使したコーラス、どこか退廃的なサウンドが混然一体となった、神秘性を帯びた無二の楽曲だ。万物は引かれ合うという歌詞からはポジティブな意味合いが読み取れるものの、楽曲の雰囲気は若干陰鬱としており、そのギャップすらもこの楽曲の魅力を押し上げている。曲名どおり、聴けば聴くほどこの楽曲に引き込まれていくのは間違いない。

M8「VESTIGIA」

激しいストリングスの音色から始まる、ライブ映えする壮大な1曲。HACHIの張り上げるような歌声はここまでのアルバム曲ではあまり見られないボーカル表現で、“痕跡”を意味する「VESTIGIA」というタイトルどおり、聴く人の心に刻みつけるような歌声が魅力的だ。自分の歌をいつまでも忘れないでほしいという祈りにも似た切実な願いをメジャーデビュー楽曲に託すのは、一般的に見れば焦燥感を募らせすぎている気もするが、裏を返せばそれだけ彼女が歌に対して真摯に向き合っている証左とも言えるだろう。HACHIという星の輝きをあなたはどれだけ受け止められるだろうか?

M9「fragment」

4人組ロックバンド・クレナズムが提供した1曲は、失恋と後悔を情緒的に綴った、煌めくようなエモナンバー。真に迫るようなHACHIの儚い歌声、ラストに向かってどんどん盛り上がっていくサウンドの展開、共感を呼びやすい歌詞など、様々な要素がリスナーの感情を揺さぶってくる。Aメロ・Bメロのミニマムなサウンドを経て、サビや間奏で一気に増える音の厚みは、さすがはシューゲイザーを得意としているクレナズム。ギターの音色にも注目しながら、大きな感情を味わってもらいたい。

M10「檻」

縦ノリしたくなるビート感と幻想的な雰囲気、そして”ティラリティリタリララッタッタ“のような独特なコーラスフレーズが印象的な、古代楽団提供のトラックナンバー。「万有引力」でお互いが引き合った結果、ブラックホールのように光さえも届かず気持ちが壊れていってしまうとはなんと切ないことだろうか。HACHIのリードボーカルの他にコーラスパートの数も他の楽曲と比べて多く、特にラストにかけて矢継ぎ早に畳み掛けるような言葉の応酬は聴き応え抜群だ。

M11「万華鏡」

万華鏡を覗き込んだときに見える不思議な世界をそのまま音楽に落とし込んだような、和で雅な雰囲気が漂う色鮮やかな楽曲。奏でられる1つ1つの音の粒がとにかく美しく繊細な輝きを放っており、この幻想的な世界観にずっと浸っていたくなるような感覚に襲われる。そんな芸術的なサウンドを何倍にも引き立てているのが、HACHIのシルキーボイス。丁寧に紡ぎながら、Aメロの“色彩の向こう”の部分に代表されるような、時折フックとなる表現を随所で散りばめている。

M12「Pale Blue Dot」

シンガーとしてのHACHIの“今“を切り取った、どんどん壮大さが増していくアレンジが印象的な1曲。「万華鏡」と同じく海野水玉が楽曲を手掛けており、「ビー玉」、「HONEY BEES」などこれまでのHACHIの鍵となる楽曲を手掛けていることから期待が高まる。クライマックスが2度3度と訪れるような、サビで一気に華やぐオーケストレーションな展開は、聴くたびに耳がハッとさせられること間違いなしだ。”百年も生きれぬ儚き灯火 それでもあなたの光でいたくて”というリリックに乗せたHACHIのシンガーとしての生き様は、「VESTIGIA」で表現されたものと根底としては同じではあるが、こちらは曲調が明るいこともあって受ける印象はかなりポジティブ。歌手として生きる決意を秘めた彼女の姿を是非とも見届けてほしい。

M13「レコードのように」

心地良さすら感じるミディアムバラードは、このアルバムで唯一HACHI本人が作詞を手がけている。自分自身から生まれた言葉だからか、今回のアルバムに収録されているどの楽曲よりもHACHIの歌声は柔らかく自然体に紡がれており、それはどんどん厚くなり盛り上がっていく後半の展開でも聴き心地は変わらない。ちなみに、“レコードのように“という比喩は1番と2番で言及される対象が異なっていたりする。彼女が綴った言葉をじっくりと噛み締めてもらいたい。

“まだ見ぬあなたに届ける歌を”というアルバムコンセプトどおり、多くの人の心に刺さるようなポップソングが数多く並んだ本作。一方で、「異星から」「VESTIGIA」「Pale Blue Dot」などが顕著だが、HACHIというシンガーの存在、そして「HACHIの歌声を1人でも多くの人の心に刻み付けてやるんだ!」という強い意志も所々で表出しており、良い意味でシンガーとしての“欲”が滲み出たアルバムとなっている。それは彼女が掲げるテーマ“あなたの心に寄り添う歌を。”の延長線でもあると言え、そういう意味では、メジャーデビューを経ても彼女の歌に対する姿勢、そしてBEESへの想いは変わっていない、むしろ強固になったと言えるだろう。

そんなHACHIは、アルバムを引っ提げたZeppライブツアー「HACHI Zepp Live Tour 2024 ”for ASTRA.”」を12月14日に東京・Zepp Shinjuku、1月10日に台北・Zepp New Taipeiで開催予定。HACHIとともに宇宙旅行を経験したあなたなら、光り輝くHACHIという星をすでに見つけたはず。このライブは配信も予定されているので、そんな彼女のまぶしい勇姿を是非とも見届けてもらいたい。

Information

HACHI メジャー1stアルバム『for ASTRA.』
release:2024.11.13
buy:https://hachi.lnk.to/for_ASTRA
listen:https://hachi.lnk.to/for_ASTRA_dg

HACHI_特別仕様-forASTRA
特別仕様盤(CD+特典)
価格:¥5,500+税
特別仕様特典:
・特製クリアケース
・記念カード for ASTRA. ver.(シリアルナンバー入り)
・ミュージックキーホルダー

HACHI_通常-forASTRA
通常盤(CD only)
価格:¥3,000+税

収録内容:
01. line, sphere, dot.
Composition / Arrangement:gaze//he’s me
02. スウィングバイ
Lyrics / Composition / Arrangement:gaze//he’s me
03. Dusk
Lyrics:yacco Composition:tee tea Arrangement:SHINTA
04. DIVE
Lyrics:yacco Composition:tee tea Arrangement:SHINTA
05. 異星から
Lyrics / Composition / Arrangement:春野
06. √64
Lyrics / Composition / Arrangement:春野
07. 万有引力
Lyrics / Composition / Arrangement:砂守岳央(未来古代楽団)
08. VESTIGIA
Lyrics / Composition / Arrangement:Powerless
09. fragment
Lyrics:しゅうた・萌映 Composition:しゅうた Arrangement:クレナズム
10. 檻
Lyrics:砂守岳央(未来古代楽団) Composition / Arrangement:松岡美弥子(未来古代楽団)
11. 万華鏡
Lyrics / Composition:海野水玉 Arrangement:出羽良彰
12. Pale Blue Dot
Lyrics / Composition:海野水玉 Arrangement:出羽良彰
13. レコードのように
Lyrics:HACHI Composition / Arrangement:gaze//he’s me
Bonus Track. 20( DJ WILDPARTY remix)
※通常盤のみ収録

HACHI-ツアービジュアル
HACHI 2024 Zepp Live Tour 「for ASTRA.」
◾️東京公演
日時:2024年12月14日(土)開場 17:00 / 開演 18:00
会場:Zepp Shinjuku

◾️台北公演
日時:2025年1月10日(金)開場 19:00 / 開演 20:00
会場:Zepp New Taipei

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